2018.06.06

新しい発想に基づくヒートポンプ研究

機械科学・航空学科 山口誠一

ヒートポンプという技術がある.熱は,ふつう何もしなければ,温かい方から冷たい方へ流れるものである.しかし,ヒートポンプを使えば,熱を冷たい方から温かい方へと移動することができるのである.身近な例をあげれば,皆さんのご家庭にあるエアコンがヒートポンプそのものである.このヒートポンプ技術は,その高い理論成績係数(効率のようなもの)や高い汎用性などを理由に,省エネルギー社会実現への中核技術の一つと言われており,冷凍,空調,給湯,蒸気生成などの分野に急速に広まりつつある.

しかしながら,実はこのヒートポンプの性能は,研究者や技術者の努力により,現在の評価基準においてほぼ限界に達しつつあると言われている.現在の評価基準というのは,簡単に言うと,例えば,定常かつほぼ無制御状態でいくつかの実験データを取得し,そこから年間の性能を算出するというものである.しかし,実際にヒートポンプが使われる環境(実負荷環境)は,そんなに単純ではないというのは容易に想像できるだろう.家庭用エアコンでいえば,部屋の大きさ,何人が生活しているのか,どんな生活スタイルか,暑がりなのか寒がりなのか,などによって実負荷環境は全く異なるのである.また,負荷というのは常に変化しているものであり,機械はその負荷を適切に処理しようと,ほぼ常に状態を監視し,制御しようとしている.したがって非定常的な運転状態が占める時間は,現在の評価基準の考え方よりもずっと多いのだ.さらに,省エネルギー社会実現へ向けた社会の大きな変化により,将来的には実負荷環境そのものが変化して行くと予想される点も注意しなくてはならない(建物の断熱性の向上,ゼロエネルギービルディングやゼロエネルギーハウスといった考え方の登場など).

このような観点から,従来の考え方にとらわれず,実負荷環境を十分に考慮した新しい評価基準のもとで,ヒートポンプの評価・設計・制御を行うことができれば,まだまだ性能向上の余地があると言えるのだ.しかし,このような検討を進めていくには,いくつか発想の転換が必要である.従来の評価基準においてほぼ無視されていた非定常的な制御について考えるためには,ヒートポンプの非定常特性に大きな影響を及ぼすヒートポンプ内部の気液二相流現象をよく理解しなくてはならないし,多種多様な実負荷環境においてより良い制御を実現していくためには,そのような現象の一般理論化が必要不可欠である.つまり従来において別々に行われていた,現象解明やシステム制御検討を,統一的な枠組みの中で考えていく必要があるのだ.

気液二相流の分流・相分離現象の可視化



熱交換器内部の着霜分布(赤が着霜部分)


2つほど具体例を挙げよう.ヒートポンプは,実負荷環境において,低負荷時に発停を繰り返す断続運転状態になったり,あるいは何らかの理由により制御がうまくいかずに,不必要なハンチング現象(状態が安定せずバタバタしてしまう現象)に陥る場合がある.このような非定常的な現象が多くの時間を占める場合,従来ほとんど研究が行われていない非定常沸騰熱伝達や,伝熱管内表面の濡れ-乾き特性などの解明と,それらが制御性に与える影響を明らかにする必要がある.

たもう一つの例として,従来よりも微細な伝熱管を有するマイクロチャンネル熱交換器というものがある.これは,従来の熱交交換器よりも伝熱性能がよく,コンパクトで,ヒートポンプ内部に充填する冷媒量を減らせる可能性があるものとして,さまざまなヒートポンプに採用されつつある.しかし,このような熱交換器を用いた場合のシステム全体の制御的安定性についてはほとんど議論されていないし,このような新しいデバイスを生かすための制御はどうあるべきかについても検討されていないのである.

このように,現象からシステムまでを同時に同じ枠組みの中で考えること,現象解明とシステム制御を別物として考えないことこそが,これからのヒートポンプ研究のあり方となるべきである.