2017.12.08

顔の魅力

顕在認知・潜在認知過程からみる魅力知覚のメカニズム
(基幹理工学部 表現工学科 渡邊克巳)

我々は目に映る多様な対象に美しさや魅力を感じますが,とりわけ,美しい顔は見る者に快を感じさせ,それを眺め,接近したいという強い動機づけを与えます。メディアや広告は美貌を持ったモデルで埋め尽くされ,毎年膨大な費用が化粧や美容整形に注ぎ込まれているという事実は,私たちの生きる社会がいかに「見た目」主義の世界であるかを如実に表しています。こうした美意識の芽生えは今から約4000年前の古代エジプト期にまで遡ることができるとされていますが,科学としての顔の美しさの研究の歴史は比較的浅く,1970年代以降になってようやく体系的な研究が始まったに過ぎません。魅力的な顔とはどのような顔か,我々には見ればそれがすぐに分かりますが,魅力を知覚する心理メカニズムは未だ多くの部分が謎に包まれています。

魅力の知覚という主観的な心理現象を科学の立場から研究する時,(1) そもそも魅力的な顔とはどのような顔か,(2) 我々がどのようにして魅力を知覚しているのかという2つの問題に直面します。著者はこうした問題に対して,人間の心理メカニズムの顕在的側面と潜在的側面の両面から明らかにする研究に取り組んでいます。通常我々が他者の顔を見て「この顔は魅力的だ」と感じる時,我々はその感覚の大きさを意識的に報告することができます。こうした自らが意識することのできる心理過程は顕在過程として研究することができます。

 

現在取り組んでいる研究では,多様な形態・テクスチャ情報を持つ多数の顔をコンピュータで生成し,評定者にそれらの顔がどの程度魅力的であるかを顕在的に評定してもらい,顔を構成する多次元的な顔情報と魅力印象の定量的関係の計算モデリングによって特定することを試みています。実際に,計算モデリングによって魅力顔の持つ特徴を強調したり,弱めたり顔画像を作り出すことで,魅力顔の特徴を視覚的に捉え,我々が顕在的に魅力を感じる顔の視覚特徴が明らかになりつつあります。

では,意識経験に基づく顕在認知の観点から,同じように,我々が魅力を知覚する仕組みや過程についても明らかにすることができるでしょうか。あなたが街で魅力的な顔を見かけたとき,なぜその顔が魅力的で,どのようにして魅力を判別したかを十分に説明できるでしょうか。実は,我々が顔を見る時,その魅力に注目することを求められていなくても,無意識のうちにわずか100ミリ秒ほどで魅力を識別していること,なぜ魅力的なのかという説明は後付け的に生み出されていることがわかっています。したがって,我々が魅力を知覚するプロセスそのものを明らかするためには,評価者の自己報告に依存するのではなく,より洗練された認知科学実験パラダイムによる潜在認知過程の研究が必要となるわけです。そのために,顔魅力が短時間のうちにどのように知覚されているかを明らかにするため,顔を目,鼻,口のパーツに分解し, 20,100,1000ミリ秒といった様々な時間の長さで提示して魅力を評価するという心理実験を行いました。その結果,目の魅力はどの提示時間においても顔全体の魅力に強い影響を与える一方で,口と鼻の魅力の影響力は,100ミリ秒,1000ミリ秒と長くなるにつれ増していくことが明らかになりました。日常場面では,我々は顔を目にした瞬間に魅力がわかったかのような錯覚を経験しますが,人間の潜在認知過程に着目してみれば,顔を見てからわずか1秒の間にも魅力知覚に影響する要素がダイナミックに変化していることが見えてきます。

このように,近年では計算モデリングや洗練された心理学実験手法によって,顕在・潜在認知メカニズムの視点から魅力知覚研究が新たな局面を迎えています。これらの研究から,長年に渡って問われ続けてきた「顔の魅力とは何か」という根本的な問いに対する示唆が得られるだけでなく,私たちの潜在認知メカニズムを深く理解することで,キャラクターデザインやメイクアップ,美容整形をはじめとした実社会の問題に科学的エビデンスを還元していくことが期待されます。