2016.10.01

人類の夢「音の記憶を残す」(表現工学科)

音楽は、いつから始まったのでしょうか。人類の歴史の最初期、 もしくは、類人猿と呼ばれる我々の祖先たちの間にもあったのかどうか、知る由もありません。

今、私たちはごく普通に音を録音し、それを聞く事ができます。音楽を保存でき、いつでも再現できる、もちろん全く同じではありませんが、少なくとも「かなり実際に近い形」で聞き、状態を知ることができることは、人類の夢の実現だったと言っても過言ではありません。

音楽がいつから始まったのか。ドイツ南部の洞窟から、約35000年前のマンモスの牙の笛が見つかっています。が、これは笛に指穴が空けられており、楽器としては相当に進んだ段階のものと考えられます。おそらくその前に、何も穴がない「ただの竹の笛」などがあったと思いますし、更に楽器以前に「唄う」、もしくは「声を出して何かを表現する」段階があっただろうと思われます。竹や木は、朽ちてなくなってしまいますし、声に至っては、出した瞬間に消え去るという、美しい現実があります。「音の記憶は残らない」従って古代の音は「知る由もない」わけです。
音楽を残したい、そしてそれを聴きたいという人類の夢、これは1800年代に実現し、現在は当たり前のものになっています。意外とあっさり実現したとも言えますが、人類の何万年かの歴史の中で、音が残っている時間はわずか150年、それだけの記録に過ぎません。それ以前の音の記憶を探し出す手立ては、今のところないのです。これを探し出せるのは科学者か芸術家か、はたまた人工知能のような第3のものか、もちろん分かりません。

Mammoth-Ivory-Flute,Geissenklosterle-Cave,Germany

Mammoth Ivory Flute,Geissenklosterle Cave,Germany(約35000年前)



「音の記録」にかんしては、この150年の歩みは目を見張るものがあります。より原音に近く収録し、本物に近く再生する。技術的にはまだまだ途上ですが、少なくとも音楽の姿を類推するに十分な能力を備える所まで来ています。最初の録音機(と読んで良いかどうか)は、1857年にフランスのエドワード・レオン・スコットによって作られました。今で言う地震計のようなもので、波形を記録する録音機のようですが、これは残念ながら再生が出来なかったとのこと。ただ、今の技術で読み出すことができ、確かに録音されていたようです。そして1877年には、トーマス・エジソンによって、録音・再生ができる録音装置が発明されました。それ以来、録音、再生ともより原音に忠実に音を記録すべく研究が続けられています。まだ生の本物の音楽を再現できるところまでは来ていませんが、エドワード・レオン・スコットの録音機を考えると、将来、今録音している媒体から、より本物に近いデータを取り出し、再現できるようになるかも知れません。今の技術では再現不可能でも、より精密な記録方式を考える意味はあると思います。

エドワード・レオン・スコットのフォノトグラフ(1857年)

エドワード・レオン・スコットのフォノトグラフ(1857年)



エジソン蓄音機

トーマス・エジソンの蓄音機(1877年)



録音・再生の技術は、芸術にとっても大きな変革をもたらしました。録音されたものを重ね合わせ、加工する事によって、実際の演奏とは違った作品を生み出し、記録に留まらない第3、第四の表現が可能になっています。また、再生技術は音声増幅を加速させ、今やたった5人の歌声を、東京ドーム一杯に響かせ、ドームの外にまで聞こえてくるパワーを備えています。

こうした科学技術と芸術の関係は、音楽に関して言えば、古代から脈々と続いてきたものです。楽器は技術者が作ります。音楽の仕組み、例えば「音階」は、数学者が物理現象に添って作ったものです。それらを評価し、作品を生み出すのは芸術家です。また、芸術家は表現のために、さまざまな希望を持っています。が、それを実現してくれるのは、工学や科学技術なのです。それは今、更に密接な関係になってきました。録音に始まり、コンピュータに至る技術の進歩の過程で、芸術も進化し続けています。人を幸せにする音を求め、表現して行くためには、科学技術とのより密接な関わり合いを必要としています。表現工学科が目指している、科学と芸術の混合、化合、そして融合、そこから更に素敵な音楽が生まれるものと信じています。

ProTools コンピュータのハードディスクレコーディング・システム

ProTools コンピュータのハードディスクレコーディング・システム

基幹理工学部・研究科へのお問合せ

受付時間:月〜金 9:00〜17:00、土:9:00〜14:00
〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1
TEL:03-5286-3000 FAX:03-5286-3500
Email:fse-web@list.waseda.jp
入試に関するお問合せはこちら

Copyright ©Waseda University All Rights Reserved.