2017.02.01

応用数理は世界を変える

世界を変えた数学者たち

人類の長い歴史の中で、世界を変えた数学者と言えば誰でしょうか?誰を選ぶかは人によって違うでしょうが、アルキメデス、ニュートン、オイラー、ガウスなどを挙げる人が多いのではないでしょうか。科学を学んでいるみなさんにとってはもちろんおなじみの名前ですよね。

なぜ彼らが活躍した時代から長い年月を経た今でも彼らの名は広く知られているのでしょうか?これまで科学の様々な発見・発明がなされてきましたが、長い年月を経ても発見者・発明者の名前が広く認知され続けることはめったにないことですから、彼らの成し遂げた発見は本当に偉大なものであったはずです。

古代ギリシャのアルキメデス(紀元前287年?- 紀元前212年)は求積法(積分)を発見したことで知られていますが、アルキメデスの原理(浮力の原理)の発見やスクリューなどの発明でも知られる天才科学者でもありました。入浴時にアルキメデスの原理を発見し裸で走り回って喜んだ逸話は有名ですね。ニュートン(1642年-1727年)は古典力学の基礎を築き、その際に必要な道具として皆さんが学んでいる微分積分学を発明し、その後の人類の歴史を大きく変えました。人類史上、最も多くの論文を書いたと言われるオイラー(1707年-1783年)は、オイラーの公式を始めとする膨大な数の数学の定理・公式を発見しましたが、流体力学の基礎方程式であるオイラー方程式や古典力学のオイラー・ラグランジュの方程式など物理学の基礎方程式も発見しています。神童ガウス(1777年-1855年)は若い頃から多くの数学の難問を解決し数学者としての名声を高めましたが、天文台長に就任する30歳前後あたりから誤差論、天体力学、測量学、電磁気学などの応用数理分野の研究にも取り組み、偉大な研究成果を残しています。

アルキメデスのらせん

アルキメデスのらせん



彼ら全員に共通することは、数学という1つの学問の枠組みに囚われず自然科学の問題と真摯に向き合い、数学を使って現実問題を解析することを試み、また現実問題への取り組みから新しい数学を切り拓いたことであると言えるでしょう。つまり、彼らは数学を科学に応用し、またその試みの中から新しい数学を創った『応用数理』の研究者(=応用数学者)であったのです。数学は数に関わる抽象的な概念と論理だけで組み立てられる学問ですから、実験・観測などの実証を要する他の科学分野とは一線を画す学問であり、数学単独で成り立つ特殊な学問です。逆に、この数学の徹底した論理と抽象性へのこだわりが、科学の諸分野への思いがけない数学の応用にしばしば繋がることがあります。何の役にも立たないと思っていた結果が数十年後に意外な分野で役に立った、ということは数学ではしばしば起こるのです。

『非線形』の時代

20世紀前半は相対性理論と量子力学に代表されるように物理学が飛躍的に発展し、それらに関連する数学も急速に発展しました。20世紀後半になると人類はコンピューターという大きな武器を手に入れ、『非線形』をキーワードとし科学全体で大きな潮流が生まれました。人類はそれまで科学で見過ごされてきた非線形性が生み出す多様で複雑な世界に気づき、『カオス』や『ソリトン』といった新たな概念に辿り着きました。数学も科学界にできた大きな潮流に巻き込まれながら、また新たな潮流を生み出しながら、着々とその根を広げてきました。数学という学問は、単独で成立する学問ではあるものの、他の学問と相互作用することで、さらに逞しく豊穣な学問へと成長し、予想もしなかった新分野を生み出す力があると言えるでしょう。「応用数理」とは、まさに数学と諸科学との深く絡みあった関係を表すことばです。

例えば、海岸や水路で見ることのできる粒子的で安定な孤立した波である『ソリトン』は、実は非線形微分方程式がなぜ解けるのか?という数学の問題と深く繋がっています。ソリトンをコンピューターの数値実験で発見したザブスキーとクラスカルを含む応用数学者たちはこのことに20世紀後半に気づき、ソリトンの『科学』と『数学』が飛躍的に発展しました。自然科学の興味深い問題を数学の問題に焼き直した時、数学の問題としても興味深い問題になることがしばしばあります。20世紀後半は、そのような驚くべきことが次々と起こった『非線形革命』の時代であったと言えると思います。
2つのソリトンの衝突

2つのソリトンの衝突



21世紀、応用数理は世界を変えうるか?

21世紀になってすでにかなりの年月が経ちましたが、果たして21世紀に世界を変える数学者は現れるでしょうか?数学も科学も多くの先駆者たちのおかげですでにかなり高度化してしまっている現代では、もはや一人の天才が世界を変えるなんてことは起こりえないようにも思えますが、人類の歴史を振り返ると、数学と他の学問分野の境界領域(つまり、応用数理)にまだ未開拓の広大な土地が広がっていてそれに気がついた才人がまた世界に革命を起こすことがいつの日か再びあるような気もします。最近ですと、ビッグデータや人工知能などが世間を騒がせていますが、そういう新しい潮流の中に数学のおもしろい問題が潜んでいる可能性はあるでしょう。21世紀、応用数理で世界を変えるのはあなたかもしれません。

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