2021.02.03

機械と情報を融合するデジタルエンジニアリング
基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科 竹澤晃弘

近年はITや人工知能等の情報技術の著しい発達が見られます.また,コンピューターも性能が向上した上に小型化低価格化が進みました.皆さんもゲームやスマートフォンを通じこの情報科社会を楽しまれていることと思います.しかし人間は情報技術だけでは生きてはいけません.我々の生活は家電製品や車等の様々なハードウェアに支えられています.この情報技術とは一見関係のなさそうなハードウェアの開発,つまりは「ものづくり」も大きく変革しているのをご存知でしょうか.このような情報技術を活用したものづくりを「デジタルエンジニアリング」と総称します.

例えば車は事故の際に乗員を守るため,極めて高い安全性が要求されます.それはセンサーをつけたダミー人形を載せた試作車を実際に衝突させて評価しますが,昔は開発過程で何回も試作を繰り返し,膨大なコストと時間がかかっていました.今は車の衝突のような複雑な現象でも高精度なシミュレーションが可能なため,試作は最低限になっています.この技術はCAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれます.

また,製品を設計する時,以前は本来3Dの形を2Dの図面に落とし込んで検討していましたが,今ではコンピューター上で3D-CAD(Computer Aided Design)を用いて3D形状をそのまま設計するのがあたりまえです.更には,試作程度なら3Dモデルからそのまま加工できてしまいます.(しかし正式な製品は2Dの図面を作成する場合が多いので製図の授業は依然重要です.)現代の加工機械はコンピューターによって制御されており,工具を動かす指令をプログラムすることで操作しますが,3Dデータからこのプログラムへの変換がCAM(Computer Aided Manufacturing)という技術により容易に可能であるためです.このCAD-CAM-CAEの一連の技術は,概念自体はかなり古いものの,洗練されたのは比較的最近であると感じます.

もっとシンプルなデジタルエンジニアリングツールとしては3Dプリンタがあります.小型の装置であれば数万円程度から存在し,家庭でもものづくりが楽しめるようになりましたし,高級な装置を使えば航空機でも使用可能なぐらいの強度を持つ金属部品を作成することもできます.以上の技術を活用し,短期間で高性能の製品が作り出されるようになりました.

しかしこのデジタルエンジニアリング,グローバル化が進む現代では必ずしも日本にとって良いところばかりではありません.デジタルエンジニアリング技術はものづくりの難易度を下げ,長い歴史に裏付けられた職人芸的な日本のものづくりの優位性を奪う可能性があるのです.例えば戦後日本の造船業は長い間世界一でした.しかし韓国・中国の台頭により現在では苦境に立たされており,関係企業の統廃合が進んでおります.これは安い人件費や国の支援を生かした価格攻勢をかけられたことが大きいのですが,一因として中韓がアメリカやヨーロッパ製の近代的なデジタルエンジニアリングソフトウェアを積極的に導入したこともあると言われています.(ただし,日本の造船業がデジタルエンジニアリング技術を軽視したということは全くなく,実際には1960年代という早期より開発に取り組んでいました.少し前に携帯電話業界でガラパゴス化という言葉が流行りましたが,残念ながらデジタルエンジニアリングの世界でも同じことが起こってしまったのです.)

現在は日本のお家芸である自動車産業で環境負荷を考慮し電化が推進される等,ものづくり自体が大きな転換点を迎えております.このような時こそ,経験・歴史に基づく保守的なものづくりをもう一度見直し,日本ならではの高付加価値の製品を開発していく必要があります.そのためには機械・情報といった枠組みにとらわれず,広い視点で研究・教育を行っていかなければなりません.学生の皆さんにもぜひ分野の枠を超えた広い学習意欲を期待します.

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