魅力的なアニメ作品を作るためのデジタル技術
基幹理工学部 表現工学科 福里 司

日本のアニメ業界の市場規模は拡大し、これまでに配信されたアニメ作品数は既に1万を超えると言われています。しかし、アニメ制作の大多数は、アニメータの手作業によって成り立っており、アニメータの負担が非常に大きい状況下にあります。また、近年のアニメ制作のコスト増(例:地上波30分程度のテレビアニメの場合、1話あたり制作費が3000万円を超える作品もある)によって、慢性的な人材不足やスキル不足も加速しています。つまり、このような状態が続けば、(口頭で伝えられてきた)日本アニメ作品に用いられる技法はいずれ消失してしまい、市場自体が衰退してしまう危険性があります。

 

このような背景から、アニメ作品を効率的に制作するためにコンピュータ・グラフィックス(CG)技術の導入が注目されています。しかし、CG技術は物理方程式や3Dモデルをベースとしているため、日本アニメのような「物理的な矛盾」や「アニメータのこだわり」を含む映像作品の制作には不向きと言わざるを得ません。そこで、現在取り組んでいる研究は、アニメ制作の各工程にて、アニメータが用いる(経験的な)技法の調査・分析を行い、計算機上で再現することを目指しています。例えば、アニメ作品に登場する誇張表現(例:ミッキーマウスの耳部は、どの視点から見ても正面を向き、片方の耳は下側に移動する)を定式化するために、アニメータが描いた少数視点のイラストに三次元推定アルゴリズムを適用した際に生じる推定誤差(≒3D構造的な矛盾)を再利用する手法[1]や、視点に合わせて3Dモデルを変形させるための対話型ツール[2,3]等が挙げられます。

 

近年では、人間の代わりにアニメ作品を自動生成する人工知能の構築を目指す試みも存在していますが、それらの大半は、アニメ制作の各工程におけるアニメータの技法に着目していない上に、アニメータとの対話的な設計はできません。その結果、人工知能システムをアニメ制作の現場に導入することは現実的ではなく、制作現場と研究業界の差がどんどん大きくなっています。世界に誇るコンテンツである日本のアニメ作品は、これまでのアニメータが考案した多数の技法(職人技)に支えられてきたと言っても過言ではありません。日本アニメ作品を対象とした(情報学的な)研究は、最新技術をどのように適用するかを考えるのでなく、アニメ作品におけるアニメータの技法を明らかにするにはどうするか、を考えることが最も重要であり、上記の問題を解決できると信じています。

 

[1] T.Fukusato and A.Maejima. “View-Dependent Deformation for 2.5D Cartoon Models.” IEEE Computer Graphics and Applications (CG&A), Vol.42, Issue.5, pp.66–75, 2022.10.

[2] T.Fukusato and A.Maejima. “Interactive Viewpoint Exploration for Constructing View-Dependent Models.” In Proceedings of the 14th ACM SIGGRAPH Conference on Motion, Interaction, and Games (MIG 2021), pp.8:1–8:8, 2021.11.10-12.

[3] I.Orito, X.Yang, K.Nakashima, T.Fukusato, and T.Igarashi. “Distorted Perspective for the Forward Camera Dolly.” ACM SIGGRAPH ASIA 2020 Technical Communications, pp.1:1–1:4, 2020.12.04-13