神経回路モデルにより描画行為を学習するロボット

2015.07.01

「表現工学」知能ロボットの視点から

「科学技術と芸術表現を融合、横断し、それらの相互関係から生まれる新しい表現とは何かを探求し、その意味を問い、インターメディアを創造する」

表現工学科の目標として、学科Webで紹介されている一文である。ここでの「科学技術と芸術表現を融合」とは具体的にはどうすることか、実はまだわからない。構成する教員と学生がともに考え具現化していくという、新しい学科のあり方だと思っている。本学科は実に多様な教員から構成されている。音楽表現、映像表現、音響工学、人間工学、認知科学、コンピュータグラフィックス、メディアデザイン、人工生命… 各々の先生が全く異なった領域の最先端で活躍されている。これらの先生方は、本来なら全く別の学科に所属されている方が自然だろう。しかし「表現工学」というコンセプトの下に集まり協働している。まさに全く異なった技術と価値観の融合、その可能性に惹かれているのだと思う。

ところで、筆者の専門は「知能ロボット」である。一見「表現」という言葉からは大分離れたイメージがあり、実際「どうして表現工学科にロボットの“必修科目”があるのか」という質問を学生から受ける場面が少なくない。そこでこの研究領域が、どのように本学科に貢献できるものなのか少し考えてみたい。

ものづくり技術としてのロボットと表現工学
ロボットはセンサー、モーター、コンピュータからなるハードウェア/ソフトウェアシステムである。この「ロボットを構成するための技術」は、ロボット以外の“全く新しいもの”を作る技術としても転用できる。それは生活の中の便利なツールかもしれないし、見る人を楽しませるメディアかもしれない。表現工学科では「インタラクティブセンシング」という選択科目を設置している。そこで学生たちは自由な発想で入門的なロボット技術を利用し。映像や音響も含めた独自の“作品”を作っている※1 このような、新しいものづくり技術としてロボットが新しい表現工学に寄与できると期待している。

※1 例えば、http://interactivesensing2014.tumblr.com/

人間との新しいパートナーとしてのロボットと表現工学

ロボットの定義は曖昧で※2、それと関わった人がロボットだと思えば、ロボットになってしまう。ロボットという人工機械の特徴は、人間がそこに感情移入し、主体性を見出しパートナーとして認めてしまう点にある。このような人間とロボットのインタラクションの研究では、関節や手先の位置精度や画像や音声の認識率といった、定量的な基準のみでは構築したシステムを評価できない。ロボットに対する人間の姿勢に関する研究は「人間にとって他者とは?」という哲学的な話題を提供するのみならず、ロボットの形態やコミュニケーションの設計(演出)、という意味でも表現工学と深く関連すると考えている。

※2 もちろん工業規格などではその機能に基づいてきちんと定義されているが。

表現を創造する知能としてのロボットと表現工学

上記した、認知されるロボットとは逆に、認知するロボットという視点も存在する。近年話題となっているディープラーニングの技術では、パターン認識の問題に対して、従来人間が設計していたデータ特徴量(抽象表現)を用いず、大量のデータの学習によりその表現を内部に“自己組織化”することで、高い性能を発揮している。筆者らはこの技術をロボットに導入し、ロボットが自らの経験を通して、その身体や環境の独自の「表現」を作り出し、運動や感覚の連想、予測が可能となることを示した※3。このようにロボット知能の研究は、「表現の創造」という表現工学の問題と関連していると考えている。

表現工学というキーワードから、その多様性を紹介するとともに、筆者の専門であるロボット研究との関係について、考えるところを述べた。ロボットは工学である、が、同時に上記したような、定量的評価基準に収まらない多様な問題を提供する学際領域である。表現という芸術要素と科学という工学応用の融合、このような視点から、ロボットの知能という研究に対して興味を持って頂ければ幸いである。

※3 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921889014000396

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