環境調和を実現する耐熱合金のリサイクル
基幹理工学研究科 材料科学専攻 鈴木進補

○熱効率改善の鍵は耐熱合金

航空機や火力発電機は,内燃機関の一種であるガスタービンを動力源としています.環境調和のためには,いかに熱効率を高めるか,つまり,いかに少ない燃料消費で大きなエネルギーを得るかが重要になります.熱力学的には,燃焼室の温度を高めれば熱効率が高まることが簡単な式で表されます.

ここで実現の大きな鍵となるのは,その高温に耐えられるタービン翼用合金です.タービン翼は,稼働中に吹き付けられる1500~1600℃の高温高圧のガスと,高速回転により一枚でトラック約三台分の重量に相当する遠心力に耐える必要があります.この過酷な環境に耐えられる材料として,現在は,主にNi基超合金が使われています.NiにAlをはじめとして約十種類の元素が添加され,それぞれの元素の役割に応じて,高精度に成分調整がされています.近年,耐熱特性で世界最高水準にある合金が,日本の研究機関であるNIMSで開発されました.タービンでの使用可能温度を上げ,タービン翼の寿命を延ばすため,優れた環境調和型材料として注目されています.

 

○耐熱合金リサイクル ~一石二鳥のCaO~

一方,近年開発されたNi基超合金は,レニウム(Re)やルテニウム(Ru)のような希少元素が添加されており,そのため価格の上昇や,採掘による環境負荷への対策が普及への課題となっていました.そこで我々は,タービン翼材料のリサイクル法の開発に取り組んでいます.タービン翼は,使用者が航空会社や電力会社と特定される点で回収しやすく,リサイクルに適しています.単純に考えれば,使用済みのタービン翼を回収してもう一度溶解し,鋳造すれば,タービン翼として利用できます.この方法であれば,希少元素も再度利用できます.しかしながら,実際はそれほど簡単ではなくリサイクルには新たな技術が必要です.タービン翼使用時に硫黄(S)などの有害不純物が表面に付着し,合金内部へも拡散していきます.このような有害不純物は,単に再溶解,鋳造をしただけでは合金内に残ってしまいます.有害元素は,たった数ppm残っているだけでも,高温での特性を著しく低下させます.

これまでの実験の結果,溶解した合金にカルシア(CaO)を接触されることが,一石二鳥であることがわかりました.まず, CaOにSを化学反応により付着させ除去すると,合金のS濃度を低減できました.これにより,使用済みタービン翼からリサイクルしたNi基超合金の高温強度が,各元素の高純度インゴットを混合した純正材と同等であることを示しました.さらに,Sを微量でも含む場合は,高温で表面の酸化膜が剥離しやすくなる問題がありましたが,溶解時にCaOと接触させた材料では,剥離を抑制できました.原子レベルの分析により,極微量のSを合金中で探した結果,ほんの僅かに溶け込んだCaがSを合金内部に捕捉して無害化していたことがわかりました.有害なSは,もともと合金と酸化膜の界面に偏析しやすかったのですが,Caにより捕捉され,界面を弱くすることはなくなりました.

 

○原子レベルの制御が巨大なシステムを支える

このような高性能の耐熱合金の普及により,燃料消費の削減や材料交換の頻度低減が実現され,さらに使用済みの耐熱合金をリサイクルすれば,材料廃棄や新規採掘を抑制することができます.原子レベルでの合金制御で,巨大な航空機や発電機システムの心臓を支え,地球環境との調和を可能にすることが,材料科学の醍醐味です.