現代は、エネルギー産業や交通技術において大変革の時代です。これらの分野では,機械科学が主要な役割を果たします。多くの課題を解決するには、環境、エネルギー、情報、生命及び安全に関わる理工学の幅広い知識を体系的に理解し、その積極的な活用によって科学技術のより一層の洗練化と技術革新が希求されています。さらに、人類の生活を豊かにするためには、機械科学の専門家が、国際的規則や企画制定に積極的に関与し,科学技術の視点からの提言をする責任を持ちます。機械科学・航空宇宙学科では、自然科学と工学を融合した機械科学の基礎的な知識を幅広く修得し、新たな科学的な価値の創造と技術革新に寄与できる人材を育成し、社会に貢献することを目的としています。
2007年の理工再編の際に、機械工学科から独立し,2020年から機械科学・航空宇宙学科の名称になりました。機械工学科は、産業の根幹をなす学問・技術を対象とするため、旧理工学部で最初に開設されました。前半の「機械科学」は、特に力学を中心とした物理法則を機械工学に応用するという考えに基づいています。英語では、”Applied Mechanics”になります。後半の「航空宇宙」には、機械科学の最も洗練された最先端技術の結晶を象徴させようという思いを込めています。また,戦時中まで学内に存在した航空機科から、航空の名称を復活させた歴史的意味もあります。学科では、長い伝統に裏付けられた堅牢な基礎を学ぶとともに、それを土台として最先端の知識を構築していきます。
主に学部2,3年生では、材料力学、流体力学、熱力学、ダイナミクス、応用数学を学問上の柱として専門科目を学んでいきます。また、機械科学・航空実験や実習科目として製図や演習科目により実践力を身に着けていきます。3年生秋学期に研究室配属(2023年入学生から適用)されます。熱流体科学部門、力学系・応用数学部門、システム・環境エネルギー部門、材料設計・加工部門、および機能設計・マイクロ工学部門のいずれかの研究室で、4年生では卒論に取り組みます。
学科では、意欲があれば興味に応じて研究をあらゆる分野,例えば情報工学、材料科学、生命科学や応用数学と関連させることができ、広く学ぶことができます。学科選びで迷った場合、本学科は有力な選択肢になります。
現代は、エネルギー供給や交通技術における大変革の時代です。いずれも機械科学が重要な役割を担う分野です。ここで、国内だけでなく国際的に規則や規格が決められるようになってきています。現状、これらは必ずしも科学技術的な視点で決められているとは限りません。したがって、人類にとって良い技術を開発しただけでは、必ずしもそれが世界で採用されるとは限りません。本学科で学ぶ皆さんには、十分に裏付けされた科学技術的知見やデータを用いて、世界に発信して討議し、人類が豊かになる社会に導いて欲しいと思います。誰かが決めた決まりを納得いかないまま、それに従って技術開発しても長続きしません。学会の質疑応答で、早稲田の学生さんが大勢の前で堂々と手を挙げて的確に質問や意見を述べています。国際会議でもそうです。これが「早稲田生の元気」です。これに期待します。本学科では、十分な基礎知識から論理的に物事を考え、自ら判断し、意見をまとめて、他者と討議する力をつけていきます。将来の進路に対しても、皆がその進路を選んだから自分も、というのではなく、自分に合った道を選びましょう。広い視野で考えると、明るい未来が拓けてきます。
私は,金属材料を溶かす、固める、変形させることにより,優れた性質を持つ材料を創出する研究を行っています。自動車、航空機、宇宙機等へ応用する材料が対象です。また、宇宙での微小重力環境を利用して、溶けた金属の性質の測定や、固まるときの結晶のでき方を研究しています。研究を深めていて楽しいのは、良い意味で、どんどん話が大きくなって、仲間が増えて、さらに、一緒に研究している学生や若手研究者たちが目を輝かせて取り組み成長していくことです。
研究の一例を紹介します。共同研究で、金属3Dプリンターで,Ti合金の粉末にある別の粉末を混ぜると、固まるときに結晶が細かくなり、材料が強化されることがわかりました。結晶が細かくなる仕組みを考えていた時に、宙に浮かして溶かして固めれば、材料が容器で汚れなくて済むため、きれいな実験ができると思いつきました。そこで国際宇宙ステーションISSでの利用機会に応募し、厳しい審査を経て、宇宙での実験が認められました。各関連分野の第一線で活躍する方々に共同研究者になっていただき、知恵を出しあって、計画や予備実験を進めました。ここで、日頃身に着けた学問の知識を総動員します。その後、せっかく用意した試料の中に孔があり、宇宙実験には不適格であることが判明しました。迫る打ち上げ日時との闘いです。元々、2022年夏にNorthrop Grumman社のロケット,シグナスNG17で打ち上げる予定でしたが、間に合いそうもありません。そこで、取りまとめているJAXAの方から「秋に次の便もあるよ」と助け船を出していただきました。少し時間ができたので、皆でまず原因究明をし、対策を立て、試料の孔を解消することができました。転んでもただでは起きないのも研究の面白さで、穴の解消法を学生が学会で発表したところ、非常に高く評価されました。2022年秋には、SpaceX Fulcon9で打ち上げられたドラゴン補給線Sp-X26でISSに届けられ、2023年春に、実験を成功させました。筑波宇宙センターで運用の皆様にISS内の装置を遠隔操作いただきながらも、学生たちが中心になって、手順書作成、現場での合図、データ取りまとめを行いました。学生中心にミッションのロゴマークやTシャツを作り、学祭でのサークル行事ようなの雰囲気もありました。
このインタビュー記事を書いているときだけでも、毎日宇宙開発の歴史を塗り替えるニュースが次々と飛び込んできます。Space-X社が月や火星に人を送ることを目的に開発した巨大ロケットStarshipの打ち上げ・帰還が成功しました。ほぼ同時期に、Boeing社がStarlinerで初めて宇宙飛行士を国際宇宙ステーションISSに送りました。民間企業としては、Space-Xに続く二番目の快挙です。日本では、月探査機SLIMの月面着陸やH3ロケットの打ち上げが成功しています。若田さんがJAXAを退職し、米民間企業Axiom Spaceの宇宙飛行士になりました。研究室でも卒論研究で民間ロケットを使ってISSで実験する時代になりました。おそらく、皆さんがこの記事を読まれる頃には、これらの話は古くなり、もっと凄いことが起きていると思います。これから、宇宙開発・宇宙利用の民営化がどんどん進み、この分野で皆さんの活躍が期待されます。今現在の流行や,既存の企業にとらわれず、夢をもって活躍できる進路を見つけてもらえればと思います。
どんな分野にも当てはまることですが、これから多くの技術開発ではますます国際協力の傾向が強まります。学生時代に国際感覚を磨いておくことは重要です。もちろん留学も良いですが、学内にいても機会があります。大学院に行くと、共同研究として外国で研究したり、国際会議に出席したりする機会を得られることがあります。外国の人とやり取りして気づくことは、企業の技術者、研究者たちの多くが博士号を持っていることです。博士号を持っていないと重要な技術交渉の席につかせてもらえません。したがって、多くの日本企業では、博士号取得者を優先的に採用しています。これからは、国際化が進んだ結果、博士号の時代となることをよく意識して、進路を決めましょう。機械科学・航空宇宙学科・専攻では、学生の海外での活動や博士号取得に向けて手厚く支援をしています。