- Concept
科学技術と芸術表現の融合
科学技術と芸術表現を融合、横断し、それらの相互関係から生まれる新しい表現とは何かを探求し、その意味を問い、インターメディアの創造を目指します。
そのために、芸術を理解する科学者と、科学を理解する芸術家という両方の人材が相互乗り入れする形で、表現工学の確立を目指します。
- Curriculum
カリキュラムの構成とポイント
- 科学技術を理解し、その意味を問い、新しい価値に関わるインターメディアを創造する基本能力の育成
- 科学技術を応用し、表現に資するための教育
- インターメディア芸術系、インターメディア工学系、メディアマネージメント系の3つにまたがる基本的な科目の履修
- キャリアデザイン、プロジェクト推進学習による体系的学習環境を実現
- 各自の個性と表現の体系を考えて習得することが可能

― 工学の世界では、低コストで高品質な製品こそが良いとされてきました。それは今日でも大切な要素ですが、価値観の多様化と呼応するように、低コスト、高品質だけではない様々な欲求、要求に応えられる製品やサービスが求められるようになってきています。
ある事象に対して、人間がどのように感じているか、本当の意味で人に役立つというのはどんなことなのかを考えていく必要がある時代に入っています。その問いに「表現」の要素を加えることで一つの解になるのではないか——-そういう視点に立っています。
表現工学科と銘打っていますから、理工系の基礎をしっかりと学んだ上で、科学技術や理論をベースにして表現を考えるのが基本ですが、表現の側面からも最新技術を取り入れることによって可能性が広がることもあるでしょう。相互に影響し合いながら発展することを目指しています。
人員としては、工学系の教員と、芸術系の教員が集まって横断的に研究に取り組んでいます。工学系の教員は、新しい技術の開発や、コンテンツ制作や芸術表現にそれらをどのように応用していくかに取り組み、芸術系はそれぞれの分野で最先端の技術を使った表現を模索しています。それによって新しい価値を生み出すことが目的です。
快適な音によるコミュニケーション
―「音」を工学的に扱っています。目指しているのは、快適な音の空間を作り出すことや、より良い音コミュニケーションの実現です。分野としては音響学、音響工学と呼ばれています。
音というのは、物理現象です。ですから、数学、物理の基礎が非常に重要です。物理現象を明確且つ厳密に把握することは、快適な音の空間を作る上で非常に重要です。
音の収録と言うと、マイクロホンを思い浮かべるのではないかと思います。通常空間にマイクロホンを配置して収録するので、音場に少なからず影響を与えます。光を使うことで、空間に何も置かない状態で、音を測定したり収録したりできます。
光というのは秒速30万kmで進みますが、音は秒速340mです。光からすると、音というものは止まっているようなものなのです。ですから、光を使えばその空間の音場を瞬時に把握し、記録することができるはずです。より厳密にその空間を表現できるはずです。実用化にはまだまだ解決しなければならない課題がたくさんありますが、厳密な音場の記録、伝送、さらには再生が可能になり、これまでの体験を変えるような可能性を持っていると思っています。
コミュニケーションという点では、歯を介した骨伝導を利用した受聴、収音に力を入れています。歯科医とも協力して取り組んでいます。ベートーベンは聴覚を失ったあと、指揮棒を歯でくわえてそれをピアノに接触させ音を知覚していたそうです。
聴覚障害者のなかには、気導音(鼓膜の振動によって聞く音)は聴き取れないが、骨導音は比較的聴こえるという人もいます。また、口の中での収音は騒音の大きな場所での発言の収音などにも活用できます。
また、音というのは感情を伝えるのにも大きな役割を果たしています。昨今、音声認識が注目されていますが、ただテキスト情報に置き換えるのではなくて、言い方や声のトーンなどの細かいニュアンスで言葉の意味は大きく変わります。メールのようなテキストでのコミュニケーションでは、ニュアンスがつたわらず誤解が生じるケースが多々あります。そういった場面で役に立てることがあるのではないかと考えています。このテーマはこれから追求していきたいですね。
― 表現というと、芸術分野のことだと思われる方もいらっしゃると思います。しかし、我々人間は生きている間は表現し続けています。人と会話したり、意見を述べたり、仕事をしたり、全てが表現です。ですから、表現を突き詰めるということは、人間のことを深く考えるということであると言えるかも知れません。その上で工学においては数理学的知識をいかに現実の生活に役立てるかが重要です。目に見える形で、一人ひとりの人間の生活を豊かにしていかなければなりません。それこそが表現工学科の社会に果たす役割だと思っています。音響を表現工学科でやることの意味もそのようなところにあると思います。
何かを極めようという気持ちで
― 今、受験を検討されている皆さんは、生まれたときからインターネットがあり、非常に多くのコンテンツに接してきていると思います。新しい表現をしたい、あるいはその表現を支える技術を創り出したい、という人には、是非、表現工学科に来て欲しいと思っています。
しかし、大学という所では作品や技術を制作、開発するだけでなく、学問の発展に寄与することが非常に重要です。ですから、ある種の厳密さも要求されます。なにかを極めようという気持ちで、意欲を持って来て欲しいですね。
新しい分野ですから、あなたの成果がこの学問分野の発展に直接寄与するという可能性を秘めています。大きな期待を持って、基幹理工学部、そして表現工学科の門を叩いてください。
早稲田大学は日本の大学の中でも最も多様性のあるところであると思います。ですからいろいろなタイプの人がきてくれることも期待しています。