Concept
鉄鋼、非鉄金属、素形材などの材料系産業はもちろんのこと、重工業、自動車、電気・電子、インフラ系、医療系産業等、日本の基幹産業の発展に必要となる材料科学の学問体系を追求する。さらにそこに数理的な視点を加えることで、次世代材料の研究開発に関わる人材の育成・輩出を目指す。
Curriculum

カリキュラムの構成とポイント

  • ミクロ材料学から大規模構造体に関わるマクロ材料学まで、材料科学の学問体系を網羅
  • 基礎研究を追求するだけでなく、機械工学的視点によって産業界の要望に応える
  • 数理的な視点を加えることにより、次世代材料の開発研究を目指す
  • 必修科目の「材料の数理モデリング特論A・B」で数理的知識とシミュレーション技術を身につける
 材料科学専攻とはどのような専攻ですか?

― 1938年に開設された応用金属学科と鋳物研究所にルーツがあります。その後、金属工学科、材料工学科と名称を変えながら、早稲田大学の材料部門は継承されてきましたが、2007年の学部再編の折に、材料だけを扱う専攻はなくなり、材料を扱う教員の方々がそれぞれの領域で研究を担ってきました。
ひとくちに材料と言っても、ミクロ材料学からマクロ材料学まで非常にレンジが幅広いので、必要とされる知識や技術は実に多岐にわたります。ですから、材料に関わるすべての領域を一人の教員がカバーするのは不可能ですし、何か一つの分野に範囲を拡げても、なかなか難しい。そんな中、産業界を中心に、材料のみを扱う組織のニーズが高まっていました。
世界的にも、材料分野の存在感は大きさを増しています。サイエンスにはさまざまな分野がありますが、材料科学が物理、化学と並ぶ一分野として認識され始めています。
このような社会の要請を受けて、2019年4月に新設されたのが材料科学専攻です。

 なぜ材料分野の重要性が高まっているのでしょう?

― およそ材料を用いない製品というのは、あり得ません。全ての工学分野が密接に材料と関っています。しかも、材料を取り巻く環境は様変わりしています。環境への配慮や効率性も重要ですから、前世紀のようにむやみやたらに実験を繰り返すようなことは許されません。
材料科学は工学の基礎となるべく、物理や化学の知見を活用しますが、「基礎を大事にしながら応用を見据える」という視点を持って取り組まないと、レンジの広い現代の材料科学に対応するのは難しい。材料だけを扱う組織が必要不可欠なのです。
さらに基幹の材料科学専攻は他大学と比べて、ユニークな特徴を持っています。それが専攻の理念にも掲げている「物質・機械・数理の融合」です。教員構成を見ていただければ明らかですが、物質系に加えて機械系の教員がいます。さらには数理を専門とする教員も在籍しています。

数理的な知見は、材料科学の発展に欠かせない

  数理系の教員はどのように材料分野に関わるのでしょうか?

― 当専攻では大学院としては珍しく、必修科目を設けています。「材料の数理モデリング特論A・B」という講義です。これはその名の通り数理的知識をベースに、原子スケールからマクロスケールまでの各段階のモデリングに用いられるシミュレーションの原理と計算手法に関して徹底的に指導します。まず、この部分で数理分野の教員の方々に尽力していただいています。
さらに材料科学という分野自体を推し進めるために、彼らの知見が重要な役割を担っています。
私の専門はアモルファス材料です。これはガラスなどに見られる構造で、解明できていないことがまだまだ多いのですが、数学の助けが必要だと痛感しています。
例えば、X線を当ててアモルファスの構造を素描するとしましょう。材料の専門家だけでは、その構造を見ても、規則性があることはわかりませんでした。ところが、数学の専門家と共同でホモロジーを用いた解析を行うことで、隠れた規則性を見出すことができたのです。材料科学の新しい地平を切り拓くのには、必要不可欠な存在と言えるでしょう。

研究とは、答えのない問題に挑むこと

 学生に期待するのはどのようなことでしょうか?

― 当専攻には基幹からだけでも、応用数理、機械科学・航空宇宙、電子物理システムという広い分野から人材が集まってきていますし、他大学からの入学者もいます。社会に出ると、さまざまな分野の人と関わることは当たり前のことですから、考え方や価値観の違いはあっても、互いに尊重しながら物事を進めていく必要があります。大学院ではそのようなコミュニケーションの仕方を身につけて欲しいと思います。
一方で、研究には自分の軸を持って取り組んで欲しいと思います。講義やゼミで身につけた知見をベースに、何か一つ、自分が全力で取り組んだのはこれだと自信を持って言えるものを見つけて欲しいと思っています。自分の強みを身に付けた上で、他分野の研究者と共同研究を行うことにより、研究の飛躍的な発展が期待できます。
大学院の大学との一番の違いは、研究がメインであるところです。研究というのは大学までの勉強とは違い、答えのない課題に立ち向かうということですから、精神的な強さも必要です。どれだけ一生懸命取り組んでも、何も成果がでないこともあります。でも、だからこそ成果を出せたときの喜びは他に変え難いものがあります。
われわれ教員も、研究という未知の領域を開拓するいわば同志です。学生の皆さんが、何か自分なりにやりきったと思えるような経験ができるよう、全力でバックアップしますから、思い切ってこの世界に飛び込んできて欲しい。そして研究を楽しんで欲しいですね。