情報理工という名称は情報科学(サイエンスの一分野)と情報工学(エンジニアリングの一分野)をカバーしていますが、海外でいうコンピュータサイエンスにほぼ相当する学科です。コンピュータそのものを作り上げる学問、コンピュータによる基本的操作を積み上げて高度な機能を実現する学問、アイデアをサービスとして実現するスキルなどを習得したグローバルに活躍できるコンピュータサイエンティストを育成しています。
2年生になり情報理工学科に振り分けられた学生さんは、まずコンピュータサイエンスの基礎理論から学び始めます。プログラミングもやりますが、この時点ではプログラミング経験がほとんどない人もいるので心配はありません。3年生になるとより高度な理論や応用について学びます。例えば私は3年秋学期にデータベースを教えていますが、この科目は理論(リレーショナル代数という数学の一種)と応用(SQLというプログラミング言語の構文など)の両方をカバーしています。4年生から研究室に配属されて、卒業論文に向けた研究に着手します。
情報理工学科には情報通信学科という「兄弟分」がおり、両学科は大学院ではひとつの専攻となっています。情報理工の学生は情報通信分野の学問も習得できます。また、大学院に推薦入学する学生は、情報理工の研究室だけでなく情報通信の研究室への配属を希望することも可能です。なお、大学院に進学する場合は「いずれの学科の研究室に配属されるか」ではなく「どの研究室に配属されるか」が重要です。研究室の分野や特色は指導教員の先生によって全然違うからです。各研究室のホームページを見ると少し様子がわかると思います。
情報理工学科ではグローバルに活躍できるコンピュータサイエンティストの育成を目指していますが、実際の卒業生の進路は多様です。特に開発が得意な学生さんだと、在学中から起業を目指している人もいますし、実際に起業して大成功している人もいます。主流はIT企業の研究開発職に就くことかと思いますが、他にも例えば商社に入る人、公務員になる人など、いろいろです。多くの学生さんが推薦で修士課程に進学しますが、この他にも、院試を受けて進学する人や、海外の大学に進学する人などもいます。学部生の間に海外留学して、戻ってきて頑張って卒業論文を仕上げるという人もいます。
情報理工・情報通信と同等の分野を扱う英語学位プログラム(CSCE Major)が設置されているため、特に4年生になって研究室に入ってからは海外からの留学生と接する機会も多いです。例えば私の研究室では、実に半分以上の学生が外国人です。このような恵まれた環境は、学生さんたちが将来グローバルに活躍するための踏み台となっているのではないかと思います。
情報検索、自然言語処理、インタラクション、ソーシャル・グッドの研究をしています。情報検索は、ユーザの欲しい情報をうまく提供する技術です。自然言語処理は、機械に人間の言葉をうまく扱わせる技術です。(ヒューマン・コンピュータ・)インタラクションは人間と機械の間のやりとりに関する技術です。さらに、ソーシャル・グッドは、技術というよりも、上記3つの技術などを用いて「世の中を良くしたい」という研究の目的そのものを掲げたものです。
大規模言語モデル時代の到来により、人間と対話できる一見賢そうなシステムが登場していますが、このようなサービスを本当によいものにするには上記の全ての技術を総動員する必要があると思います。私は特に、「そのシステムはユーザにとって本当に有効か?どれくらい有効か?」という観点で、システムの「よさ」を評価する方法論について長年研究してきました。
研究者は、映画によく出てくるマッド・サイエンティストとは違い、技術により世の中をより良くすることを考えるべきです。例えば、大規模言語モデルによる対話システムがユーザにとって有害な発言(例えば嘘や偏見を含むもの)をすることを防ぐべきだと思います。また、このようなシステムを使いこなせる人とそうでない人の間の不平等を是正すべきだと思います。さらに、大規模言語モデルやその他大規模計算を伴うシステムはCO2を排出し、水を消費し、地球温暖化の一因となりえます。このように、多様な観点から研究が社会に与える影響を常に考え、行動に移すべきだと思います。
情報理工学科に入ってから専門知識をスムーズに身に着けるには、数学などの基礎学力が重要です。高校生の間は数学のような学問が実際にどのように役立つのかイメージしにくいかも知れませんが、大学に入って勉強をすると「ああ、こういうシステムを作るのに必要なんだ!」「ああ、こういう実験をするのに必要なんだ!」という感じでありがたみがわかってきます。余力があればプログラミングについても少しはやっておくとよいですが、まずは基礎学力!受験生の生活は大変ですが、自分や周囲の人の心と体の健康に気を遣いながら有意義に過ごしてください。
キャッチフレーズに「豊かで公平な」と書きました。一部の人にとって豊かな社会ではなく多様な人にとって豊かな社会を実現したいと思います。コンピュータサイエンスはそのためのひとつのアプローチに成りえます。学力だけではなく、自分以外の人のことを思い遣れる想像力も一緒に養いましょう。両者を併せ持つ真にインテリジェントな人々が協力すれば、世の中は今よりもよくなるはず!