次世代航空機エンジン技術の発展に向けて
基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科 藤澤信道

航空機産業は、新型コロナウイルス感染症の拡大により大打撃を受けましたが、IATA(国際航空運送協会)によると、今後の航空需要について2024年には2019年と同水準まで回復し、今後年4%程度の持続的な成長が見込まれています。その中で、急速に脱炭素化の要求が高まりつつあり、機体・エンジンの軽量化・効率化等に関する技術開発が全世界のメーカーで実施されています。また、次世代航空機として、水素航空機や電動航空機、「空飛ぶクルマ」といったeVTOLの開発競争も激化しています。こうした状況を踏まえて、次世代航空機に必要とされる航空機の主要部品の要素技術開発のための研究が全世界で進められています。ここでは、流体力学を駆使して航空エンジンの主要部品である圧縮機の研究を行った例を紹介します。

今日、二酸化炭素排出削減などの環境適合性の強化や、原油価格の高騰する中での燃料費削減の要求から、旅客輸送の主要な推進機関である航空用ターボファンエンジンには、燃費の低減が求められています。近年、燃費の低減のために、重量の低減と共に、航空エンジンの小型コア化が進んでいます。小型化が進む中で回転する動翼の高さが小さくなると、回転翼と静止壁の間の翼端隙間のサイズは安全面上変更できないため、翼端隙間はこれまでの圧縮機と比較して相対的に大きくなり、隙間からの空気漏れが大きくなり圧縮機の性能が低下する課題があります。また、翼端隙間が相対的に大きくなる圧縮機では、性能低下だけではなくRotating Instability(以下RI)と呼ばれる不安定現象が発生することが知られています。RIにより圧縮機機器の破損に繋がるような振動が発生する、あるいはRIの発生を避けて運転することを強いられるために、エンジンの運転範囲が限定されるなど、航空エンジンの分野では大きな問題となっています。

そこで、研究室で保有する1.5段軸流圧縮機を用いて試験を行い、RIの現象解明を行いました。この圧縮機は研削した2種類のケーシングを用いることで、翼端隙間を変化させることができます(図1)。実際の試験では、翼端隙間を大きくすると性能が低下するとともに、翼の回転によって引き起こされる変動とは別に、RIによる低周波数の変動が確認されました。また、RI発生時の圧縮機内部の流れを詳細に調査するために、流れの様子を記述するNavier-Stokes方程式を解析的に解く数値計算コードを開発し、スーパーコンピューターを利用したGPU解析を実施することで、高速かつ高精度に圧縮機の内部流れを再現しました。数値流体解析から得られた圧縮機の動翼近傍の流れ場を可視化した結果(図2)を示します。この図より、動翼と静止壁の隙間から渦が周期的に放出されるがRIの発生要因であることを示しました。また、RIの発生により形成される圧力の変動は試験でも確認することができ、本圧縮機で発生するRIの現象解明に繋がりました。

このように、試験と試験を互いに上手く使用しながら、航空エンジン用圧縮機に発生する不安定現象を調査した例を紹介しました。機械工学の分野では、従来の実際の機械を用いた試験と併用して、情報科学を用いた数値解析技術を多用しています。近年では、大量の試験データに基づいて物理モデルを修正するデータ同化技術や解析結果を予測する機械学習も導入されています。今後も航空エンジン技術の発展のために、試験と解析をより緊密に連携させながら、基礎的な現象解明に重きを置き、研究活動をさらに推進していきます。優秀な皆さんと一緒に、研究活動が出来ることを楽しみにしています。