エネルギーハーベスティングから持続可能な未来へ
基幹理工学部 電子物理システム学科 史又華

電子工学の進展により、私たちの生活は劇的に変化しました。かつて部屋一杯を占めた巨大なコンピュータが、現在では手のひらサイズや身に着けることができるデバイスへと進化しています。これらの小型化されたデバイスは、私たちの日常生活をより便利で快適なものに変えています。しかし、この技術革新の背景には、持続的かつ安定した電力供給という大きな課題が存在しています。

 

現在、携帯用電子デバイスを駆動させるため、電力のほとんどはバッテリーによって供給されています。しかし、既存のバッテリー技術は、サイズ、持続時間、環境への影響という面で限界があります。これらの限界を克服するための解決策として、近年、エネルギーハーベスティング技術が注目されています。エネルギーハーベスティングのコンセプトは、私たちの周囲の無駄なエネルギー(熱、振動、光、電波など)を収集し、それらを利用可能な電気エネルギーに変換する技術です。これまで、我々の研究グループは、人体からのエネルギーを利用する振動発電、熱電発電、および摩擦発電などの研究開発を行ってきました(図1参照)。振動発電は、人間の動作や工業機械の運動エネルギーを電気に変換します。熱電発電は、体温を利用し、摩擦発電は静電気を活用します。例えば、靴の内部にエネルギー変換回路を組み込む、人の歩行時に発電し、バッテリーなしで加速度センサの情報を無線で送信することが成功しました。このようなエネルギーハーベスティング技術により、電子デバイスは環境から電力を得て、バッテリーの持続性問題や環境負荷の軽減が可能となりますので、持続可能で環境に優しい社会の実現に向けて重要な役割を担っていることが期待されています。

 

しかし、エネルギーハーベスティング技術は、エネルギー源の限定性やその発電量の不安定さという課題に直面しています。例えば、振動発電の場合には、振動がない時、もちろん発電はできません。また、異なる周波数での振動に対して、生成できる電力は大きくかわります。そのため、どうにかこれを克服するような効率の良いエネルギーハーベスティングシステム設計技術の開発や、低消費電力の電子デバイス・電子回路設計の進化が必要です。すなわち、エネルギーハーベスティングの研究開発には、材料科学、ナノテクノロジー、電子工学など、多岐にわたる分野の技術が結集する必要があります。これらの技術の統合により、より効率的で実用的なエネルギーハーベスティング技術が生まれ、新しい産業の創出に寄与しています。

 

歴史を振り返ると、人類は常にエネルギー源の発見と利用において進歩を遂げてきました。火の使用から始まり、水力、風力、化石燃料、そして再生可能エネルギーへと、エネルギーの取得方法は時代と共に変化してきました。エネルギーハーベスティングは、この長い歴史の中で最新の節であり、持続可能で環境に優しい未来への大きな一歩を意味しています。是非皆さんと一緒にこれらの実現に向けて頑張りましょう。