安全・安心な社会を実現するターボ機械の役割
基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科 宮川 和芳
ターボ機械とは、流体を利用して回転する羽根車により、流体エネルギーと機械的な回転エネルギーを変換する機械の総称です。ポンプ、送風機、圧縮機、タービンなどが含まれ、社会のエネルギー供給や輸送、生活インフラを支える基盤技術となっています。
発電分野では、火力発電のガスタービン・蒸気タービン、水力発電の水車、さらには原子力・地熱・バイオマス発電に至るまで、太陽光発電のような直接発電方式を除けば、多くの大規模発電方式では流体の力でタービンを回し、発電機を駆動して電力を生み出しています。輸送分野では、航空機のジェットエンジンが圧縮機とタービンから構成され、ロケットでも燃料を高圧・大流量で供給するターボポンプが推進力の確保に欠かせません。船舶にもプロペラの他、船底から水を吸い取り船尾から高速に噴出するポンプが高速推進システムとして利用されています。これらはいずれも、限られた重量・空間の中で大流量・高エネルギーの流体を扱う必要があり、ターボ機械の性能と信頼性がシステム全体の成否を左右します。
また、ターボ機械は社会インフラにも広く用いられています。上下水道やガス輸送のポンプ・圧縮機、空調設備のターボ冷凍機、換気扇や扇風機もその一種です。さらに、洪水対策にも大規模なターボポンプが活躍していて、例えば埼玉県の庄和排水機場では、ガスタービン駆動ポンプ4台で近隣の中小河川で溢れた水を最大毎秒200立方メートルもの水量で江戸川へ排水し、流域の浸水被害を軽減しています。江戸川の平均流量が毎秒約110立方メートル、多摩川の平均流量は毎秒約40立方メートルであることを考えると大変に大きな設備であることがわかります。このような大規模・大流量の排水は、他方式では実現が難しく、ターボポンプならではの特長です。以上のようにターボ機械は単にエネルギーを効率よく変換するだけでなく、災害時にも機能を維持し、人命や社会活動を守る「安全・安心の基盤技術」として重要な役割を担っています。
近年、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、ターボ機械の果たす役割は一層重要となっています。水力・揚水発電の大量導入による再生可能エネルギーの支援、社会全体の電力消費の2〜3割を占めるポンプの高効率化による省エネルギー、水素などカーボンフリー燃料の輸送に必要な高性能ターボ機械の開発など、多様な分野で高度なターボ機械技術が求められていて、当研究室ではそれらの研究開発に基づき高性能、高信頼性ターボ機械の設計を実施しています。これらはエネルギー効率の向上だけでなく、安定供給と環境負荷低減を同時に達成することが、将来の安全・安心な社会に不可欠であることを示しています。
このようにターボ機械は、エネルギー供給から輸送、生活インフラ、そして未来のエネルギーシステムに至るまで幅広く利用されていて、その基礎となる原理は共通しています。大学で学ぶ流体力学やターボ機械の基礎科目によって、これらの技術を支える理論を体系的に理解することができます。ターボ機械の核となる回転羽根車内部の流れは、特に複雑です。しかし、高度な実験や数値解析技術を駆使することで、流れを把握し、羽根車形状の最適化によって流れを制御しています。早稲田大学の機械科学・航空宇宙学科では、複数の研究室でターボ機械の研究開発を実施していて、理論研究にとどまらず、実機設計や産業界との連携を通じて社会実装を進めています。ご興味ある方はぜひホームページなどをご覧ください。



