数学の面白さ(数学科紹介)

 中学・高校の教育を受けた人ならば誰でも「数学」という分野がどういった事柄を問題にしているかについて、自分なりのイメージを持っているものと思います。では、大学の数学科でどのようなことが教えられ、どのようなことが研究されているのでしょうか。

 

 学問分野としての数学の大きな特徴として、数学はそれ自身で閉じた世界を形成することができることが挙げられます。例えば、「2次方程式を解け」という問題について考える時、数学以外の前提や知識は必要とされません。また、学問としての数学は既に解法の知られている問題を解く技術に習熟することを目的にしているのではなく、それまでだれにも解かれていない問題を解いていく営みです。その過程で数学は無数の新しい概念を獲得してきました。このことは歴史的には2次方程式を解く研究から複素数の概念が現れ、またその複素数の概念がいくつもの新しい数学の分野を拓いていったことからもわかります。そのようにして数学は発展してきたのです。もちろん,数学以外の分野からの要請や直観によって新しい数学が生まれることもあります.それでもなお,古代から何千年もの間、人類を数学の研究、新しい数学の発見に駆り立て続けてきた最大の要素は、しばしば「美しい」という言葉で表現される数学それ自身のもつ面白さだと言えます。数学者たちが見いだしてきた珠玉の理論や定理の数々を芸術作品になぞらえることはいささかも不自然ではありません。

 

 また、数学以外の何者にも束縛されないという意味で、数学は非常に自由な学問であるといえます。そして、その自由を支えているのは数理的な思考と厳密な論証です。数学は決められた公理というルールの中での論証によって何を言いうるかというゲームやパズルのようなものととらえることもできます。数学を勉強し、研究することの喜びはこのゲームやパズルを解く喜びでもあります。

 

 一方で、そうして生み出された数学の理論や知見は、元々そのように意図されていなかったとしても自然科学をはじめとする様々の現象の記述にも用いられてきました。例えば、先にも述べた通り複素数の概念は、歴史的には2次方程式の純粋に数学的な探求の中で、言ってみれば「数学ワールド」から誕生したわけですが、その後、量子力学をはじめする物理学を記述する際に本質的な概念であることが認識されることになります。これと類似した例は枚挙にいとまがありません。同じように、今日研究されている全く抽象的な数学の新理論が、もしかしたら何十年、何百年後にテクノロジーに応用され、人類の生活に寄与する、といったことは十分あり得ることなのです。これもまた数学が持つロマンティックな一面だと言うことができるでしょう。

 

 私たち数学科には、このような数学それ自体の面白さ、数学の問題を解く面白さ、また、数学が現実の問題に応用されていくことの面白さを愛する先生や学生たちが集まっています。数学を通して得られる数理的な物事の捉え方、論理的な推論をする力は将来社会に出てからもとても役に立つものです。数学の勉強は決して楽なことばかりではありませんが、しかしなによりも、数学に取り組むことでしか得られない独特の喜びがあります。数学科は、講義やセミナーなどを通じて先生や同級生、先輩後輩と議論をたたかわせたりしながら数学の楽しさを発見していくことができる場なのです。