幾何学が与えてくれるもの(数学科)

幾何学とは図形や空間を扱う学問です。今回は、幾何学が我々に何をもたらしたのかを改めて考えてみましょう。
「ユークリッド幾何学」
中学校で扱う三角形の合同などは、ユークリッド幾何学という2000年以上前から知られている幾何学です。それが記されている「ユークリッド原論」では、「点とは部分をもたないものである」等の点、直線、円などの定義、そして、それらが満たすべき五つの公理のみから理論を構築しています。公理の一つは「平行線公理」と呼ばれ「直線L上にない点を通りLと交わらない(つまり平行な)直線が唯一本引ける」というものです。これを「公理」とすべきか他の四つの公理から導ける「定理」なのかという論争が続き、決着を見るには19世紀まで待たなければなりません・このユークリッド原論は、数学のみならず、すべての学問の根本にあるものを与えてくれます。「様々な経験的事実から、本質を見抜き、論理体系を作り上げる。また、証明を与え、理論を普遍的なものとする」。つまり、「学問とは何をするものか」に対する回答を与えているのです。
「座標を用いた幾何学」
次に、高校で学ぶ幾何は、平面や空間に「座標」を入れて幾何学を行う「解析幾何学」です。それまでコンパスと定規で扱ってきた図形は、座標を導入することで代数的または解析的に調べることが可能となり、複雑な曲線も扱えるようになります。例えば、以下の図1がそうです。

図1

17世紀後半にニュートンは力学を記述する際、この解析幾何学を明確な形で使い始めました。そして「微積分学」が発展するのです。座標という「空間の新しい捉え方」が科学に大いなる進歩をもたらしたのです。
「非ユークリッド幾何学の誕生」
さて、我々が住んでいる空間では、2点の距離を「2点を結ぶ最短曲線である線分の長さ」としています。しかし、最短曲線は線分でよいのでしょうか?ユークリッド幾何学に縛られすぎではないでしょうか?もし、空間が歪んでいるならば,最短曲線は線分ではないため、平行線公理が不成立な論理体系を改めて構築する必要があります。その一つが19世紀に開発された「非ユークリッド幾何学」です。この新しい幾何学のおかげで、平行線公理は「公理」であることが理解されたのです。非ユークリッド幾何学では双曲円盤の上で幾何学を行うのですが、双曲円盤とはいつまでたっても境界の円に辿り着けない「双曲距離」が入った円盤です。そのため下図(2)のように最短曲線(測地線)は曲がってしまい「測地線L上にない1点を通りLと交わらない測地線はたくさん描ける」ことがわかります。

図2

ユークリッド幾何学の平行性公理を変更するという直観とは異なるアイデアにより、我々は新しい空間認識を得ることができたのです。

「そして未来の幾何学へ」
それから100年余り、現代幾何学の進歩は目覚ましいものがあります。空間のより大域的な曲がり具合を記述する「位相幾何学」、空間や物質の対称性を記述する「リー群」、物理学の大統一理論と「接続の理論」の結びつきなど、幾何学は、空間のみならず、重力、素粒子などを記述する言葉を与えてくれます。また、近代物理学において、量子に粒子性と波動性をもたせることで量子力学が生まれ、最近は、粒子を「点」ではなく「ひも」と見なす弦理論の研究が盛んです。今度は、ユークリッド幾何学の点の定義(点とは部分をもたないものである)の変更に迫っているのかもしれません。
現代までの幾何学を振り返ると、既存の理論を越えた新しい理論の構築が繰り返し行われてきています。これまでの理論を超える斬新な空間概念・空間認識を与えることができれば、新しい世界が開けることでしょう。みなさんも,チャレンジしてみてはどうでしょうか。