Creative Interspecies Conversations:
Art and Ecological Thinking
表現工学科 James JACK(ジャック・ジェームズ)

 

What can we learn from more than human species? Art

provides a method for understanding other species. I have

seen Chinu fish communicate feelings with each other and

Uguisu singing to talk to other species who are listening.

Earthworms tell stories to each other as they dig, eat

and reproduce inside of the soil. Some conversations can

be observed with our senses keenly attuned to other

species, and others require imaginative leaps based on our

own lived experiences. Artists including myself open

spaces for creative interspecies communication such as

a guide to loving water, to learn from living materials.

 

For example, observe a plant in your immediate
surroundings now. A round leafed Crassula ovata (kane no

naru ki) plant sits near me while writing this article with
bright pink buds preparing to blossom even in the

coldest days of winter. Recently each of my students

brought a plant and a story to class where we all learned

of intimate kinships with these living things as friends.

In kinship with the more than human world, ethnobotanist

Gary Paul Nabhantouches a plant each day to get away

from the computer. When we connect with plants away

fromour devices, we return refreshed in our digital

communications linked with other species. These

conversations can be inserted into the screens we are

on right now and shared through fresh waves of wifi.

 

Conversations with other species take colorful forms in

artworks. For example, “Shhhh! Plants Talking” artwork

displayed as part of lumbung: documenta fifteen

encourages us to shift our dailiy communications to

include botanic friends. This bright yellow artwork

displayed at facing a public street with frequent

pedestrians reminds humans to pay attention to plants

in our daily conversations. It existed within the ecosystem

of an upcycled shopping center repurposed to become

ruruHaus, the central hub of activity in this quinquennial

exhibit. The free admission public art spaces of ruruHaus

are alive with conversations over coffee beans, fishing

nets and brewed hops including activations by the

Composting Network my art collective is a part of.

 

The sea is also full of other than human species for us to

learn from. For example, in Setouchi (Kagawa Prefecture)

the Teshima Art Museum is an open teardrop shape

enhances human sensitivity to self in connection with

other species. Sounds of the wind, uguisu birds and the

occasional falling leaf resonate off the softly bleached

walls and floors of the museum designed by architect

Ryue Nishizawa and artist Rei Naito. A space that is both

indoor and outdoor at the same time, micro water droplets

are transformed into gigantic geological shapes inside of

this expansive space. On the nearby island of Naoshima,

the artwork Slag Buddha 88 – Eighty-eight Buddha

Statues Created Using Slag from Industrial Waste at

Teshima transforms human waste into sculptures of

healing for the environment. Artist Ozawa Tsuyoshi is

deeply concerned with the positive impact humans can

have on each other, plants and animals including a

current fascination with behavior of goats for a new

artwork.

 

As an artist and researcher, I communicate with what

Van Horn calls “other than human species” and share

these transmissions with others  in creative ways.

Deep listening to water, plants, seaweed, fish, birds and

more than human life nourishes ecological thinking.

Respectfully working with waves of wifi, I aim to spread

positive relations between species in exhibits, teaching

and publications. In symbiosis with other disciplines, art

opens opportunities to learn together in open ways

where sharing benefits diverse species and elements

involved in dialogue.

人工知能技術開発・運用の難しさ
基幹理工学部 情報通信学科 小川 哲司

スマートスピーカなどで使われている音声の認識や合成,日本語から英語へのテキストの翻訳,自動運転などで必須の技術であるカメラに映った人や車の検出や追跡などの分野では,人工知能(AI)技術\(\sf ^{(^*1)}\)が「成功を収めている」と言われています.これらの分野では,AIシステムを開発するために必要な大規模でかつ整理されたビッグデータが利用可能ですし,AIシステムが予測した結果はユーザに依らず同じで\(\sf ^{(^*2)}\),予測の根拠を説明する必要は必ずしもありません.

一方で,例えば,繁殖牛の分娩兆候を映像により監視する場合について想像してください.繁殖畜産農家にとって分娩事故の経済的損失は甚大なため分娩兆候の監視は必須であり,その負荷軽減のためにAI技術を利活用することが期待されています.しかし,家畜の映像ビッグデータなどは公開されていませんし,同じ映像でも分娩の予兆とみなすか否かは農家の運営方針により異なります\(\sf ^{(^*3)}\).また,分娩の介助のための意思決定を支援する以上,分娩兆候であると判定した理由を農家にとって直感的な形で説明することが求められます.実は現在のAI技術は,このような状況にめっぽう弱いのです.実運用のことを考えると,ビッグデータと深層学習技術さえあれば農家の役に立つ情報の抽出が「勝手に」できるようになる訳ではなく,そのための「仕組み」をシステム構築の過程に無理のない形で組み込んでおく必要があります.実状に照らして考えれば,農家の意思決定を支援するための映像監視システムには,

1) 大量のデータがなくてもシステムの構築・運用が可能である
  こと,
2) 監視映像は日々蓄積されるので,それらを用いて映像監視シ
  ステムを成長させることができること,
3) 映像監視システムの予測根拠をユーザ(農家)にとって直感
  的な形で説明可能であること,

が求められます.これらの要件を満たすための仕組みが適切に組み込まれていないシステムは持続可能な運用ができずに場当たり的な対応が求められ,運用の過程で非常に手間が掛かる可能性があるのです.

この家畜の映像監視のように,AI技術の利活用が進んでこなかった産業分野においてAIシステムを開発・運用するためには,機械学習・深層学習技術を利用するための根本である「データ」に頼り切ることができない場合がほとんどです.では,何に頼れば良いかと言えば,畜産・繁殖の専門家や農家が持つ「知識」や「経験」に頼らざるを得ないのです.ただし,農家の仕事の邪魔になるような頼り方をしては持続可能なシステムの運用はできないので注意が必要です.我々は,少量データに対する頑健性,運用の持続可能性,予測根拠の説明性といった要件を満たすような映像監視システムの開発・運用は,ユーザインタビューを通じた人間中心設計に基づく以下の4つのステップにより実現できると考えています.

1) 専門家(例えば,畜産農家)に対し,分娩介助を判断する拠
  り所\(\sf ^{(^*4)}\)について聞き取り調査を行う(農家とAI技術者の協
  業).
2) 専門家が拠り所とする情報をAI技術において扱いやすい情報
  に分解し,その抽出方法の設計,システムの開発を行う(AI
  技術者が担当).
3) 前段で得られた情報をもとに,分娩兆候であるか否か判定す
  る方法の設計,システムの開発を行う(AI技術者が担当).
4) 分娩兆候である旨を農家に通知するインタフェースの設計,
  開発を行う(農家とAI技術者の協業).

このアプローチでは,ユーザや専門家から提供された意思決定の拠り所となる知識を深層学習モデルやその学習プロセスに組み込むことを重要視しています.モデルの骨組みは知識として与え,知識で記述するのが難しいところはデータから学習するという考え方です.こうすることで,モデルの学習にビッグデータを必要とせず,ユーザにとって直感的な判断根拠もモデルから提示可能になるでしょう.さらに,ユーザが日々の業務の中,無理のない形でシステムにフィードバックを与えることで\(\sf ^{(^*5)}\),AIシステムがユーザの意図通りに(例えば,農家の運営方針に沿う形で)振舞うようになることも期待できます.我々のグループでは,これまでAI技術とは縁遠かった,畜産業や水産業,風力発電のメンテナンス事業,医療・看護などの分野で意思決定支援AIを構築・運用する試みを推進していますが,現場の方々と関わる中で,ここで述べたような人間中心設計の重要性を強く感じています.

AI 技術の進展は著しく,これまで人の経験と直感に頼り切っていた産業分野への利活用も現実的になってきました.ただし,その持続可能な運用は依然として容易ではなく,AIシステムを運用しながらユーザと共に進化するエコシステムを構築する必要があるように思います.そのチャレンジは,まだ始まったばかりと言えるのではないでしょうか.

  
(*1) より正確に言えば,機械学習・深層学習技術やその応用であ
  る各種メディア処理技術.

(*2) 例えば,ある音声の発話内容は聞き手に依らず同じはず.

(*3) 牛舎が自宅敷地内にある場合と離れた場所にある場合とで
  は,分娩介助に向かうタイミングが異なるため.

(*4) 尾の挙上,分娩房をぐるぐる回る,など.

(*5) 電子メールソフトウェアであれば,迷惑メールを通報する作
  業に相当する.

人工知能と科学技術の未来
基幹理工学部 情報理工学科 石川 博

今の人工知能ブームは2012年に始まりました。写真の理解は人間には容易ですが、特定の物ではなく犬とか猫とかの種類を認識する一般物体認識は、機械には不可能でした。そのコンペティションで10年前、大差をつけて優勝したのがディープラーニングという、現在のブームの火付け役になった技術です。なぜ一般物体認識が難しいかというと、例えば犬に見えるということの、一般の犬にあてはまり猫には当てはまらないような定義、いわば犬猫分別の法則を見つけることが難しいからです。それは今でもできませんが、ではどうしたのかというと、定義することはあきらめて、多くの例を機械に見せて、こういうのが犬だとわかってもらった、つまり機械に学習させたのです。何十年も研究されてきた機械学習がついに結実したのがディープラーニングでした。その後、視覚だけでなく音声認識、自動翻訳などに広く使われるようになり、スマホなどに実用化されました。

人工知能は、人間の頭脳の代わりを機械にさせるという長年の夢に一歩近づいた応用ですが、一方で機械学習は意外なところにも使われ始めています。例えばタンパク質の構造予測で飛躍的な高性能を実現しました。タンパク質は、約20種類のアミノ酸が一定の配列でつながった鎖ですが、その立体的な形は、細長い鎖というより、折りたたまれて複雑にからみあった塊です。無限と言ってよいほど多様なタンパク質の化学的性質や医薬品としての機能は、立体形状で決まります。例えばウイルスはタンパク質でできているので、感染性の解析やワクチン開発には、タンパク質の立体構造を知ることが重要です。また人間もタンパク質でできていますが、その一部が「間違って」折りたたまれるため起こる病気もあります。アミノ酸配列は遺伝子配列から決まるため、遺伝子の効果を知る上でも、アミノ酸配列からの立体構造予測は重要です。タンパク質を合成し電子顕微鏡や核磁気共鳴装置で立体構造を解析するには膨大な時間とコストがかかるので、シミュレーションで予測したいのですが、それに機械学習が劇的な性能向上をもたらしたのです。

これが機械学習の応用として意外なのはなぜでしょうか。アミノ酸の鎖がある立体形状に落ち着くような物理的過程を予測するには、その過程をシミュレートするのが普通の考え方で、実際従来は物理・化学の多様な知見を用いて予測してきたのです。ところが機械学習では、科学的知見・手法をほとんど使わず、入力(アミノ酸配列)と出力(立体構造)の関係を「学習」させます。入力から答えを当てさせ、正解と比べて、より近い答えを出すように人工ニューラルネットワーク(図)のパラメーターを少しずつ変えていくのです。イメージ的には、入力と大量の数字をよく混ぜ、出てくるものを見て、いい方へその数字を変えていくというもので、そこには法則のようなものは何もないのです。人工知能では、法則を見つけることが難しく長年苦心した問題が機械学習で解決されたのですが、多くの法則が知られる物理や化学で、それらを使わない機械学習が、法則と人知を駆使した手法を凌駕したのが意外なのです。

しかしこのような例は他にも次々と出てきており、基礎物理学の分野でさえ機械学習の応用がされはじめています。一般に我々の未来予測は、短期的には変化を過大に、長期的には過小に評価する傾向があります。新技術の想像がつきやすい影響は過大評価し、思ったほどでもないとがっかりしがちですが、長期的な影響は我々が考えるよりも大きいと思うべきでしょう。今は想像もできない、工学の常識を無視したような人工知能による技術が、50年後の世界にはあふれているかもしれません。

結晶中を運動する電子
基幹理工学部 電子物理システム学科 小山 泰正

 ご存じの通り、粒子の運動を表す物理量としての運動量やその保存則である運動量保存則は、大学入試での必須の学習内容と言うこともあり、理工学部の皆様にとって大変馴染み深いものでしょう。では、運動量や運動量保存則は、一体、何を基礎に導かれるのでしょうか。少し不思議な感じがするかも知れませんが、空間が示す対称性の中で、空間の一様性と言う対称性に関係しています。具体的には、一様な空間内での力学的性質は任意の距離の平行移動に対して不変だと言うことです。そこで任意の距離と言うことなので、無限小の平行移動を考えることにより運動量や運動量保存則を導くことができます。また、空間の等方性と言う空間の回転に関係する対称性もあり、無限小回転から角運動量と呼ばれる物理量を得ることもできます。ただ、角運動量については紙面の都合上ここでは触れませんので、興味がある方は各自で調べてみてください。

 物理には、私が専門としている固体(結晶)物理という分野があります。これは結晶中における電子の振る舞いについて、その理解を目的とする学問です。では、固体(結晶)物理の場合でも一様な空間と同様に、電子の運動量を考えて、その振る舞いを理解することは可能なのでしょうか。ここで、一様な空間との相違は、結晶内の電子が周期的な規則正しい原子配列の中を運動していることで、その結果、結晶の持つ対称性からの要請を受けることになります。特に重要な対称性は、周期的な原子配列に関係する有限距離の平行移動の対称性で、このため、結晶中の電子の状態はブロッホの定理と呼ばれる定理を満足しなければなりません。そして興味深いことに、ブロッホの定理を満足する電子の状態に対して、一様な空間で定義される運動量を得ることはできず、また運動量保存則は必ずしも成立しないことが知られています。

 では、結晶中の電子の振る舞いはどのように扱えばよいのでしょうか。実は、結晶内の電子に関しては、結晶運動量および結晶運動量保存則の言う概念を通して、その振る舞いを理解することが可能です。一見、結晶と言う言葉がついているだけのようにも思えますが、一様な空間の場合とは異なるものです。実際、結晶運動量と結晶運動量保存則は数学の離散群の概念と関係していて、このため電子の状態は並進群や空間群と言う対称操作群の既約表現を通して理解されることになります。また、並進群の既約表現が波数ベクトル \(\it k \) で指定されることから、結晶中における電子の振る舞いを理解するには、逆空間や逆格子と言った概念の理解が不可欠です。そこで逆格子を規定する逆格子ベクトルを導入すると、既約表現 \(\it k \) と逆格子ベクトル \(\it g_i \) だけ異なる既約表現 (\(\it k \) + \(\it g_i \)) は同値であることが導かれます。実は、結晶運動量保存則はこの同値性に基づいています。すなわち、繰り返しになりますが、固体(結晶)物理において議論される物理量は、数学における離散群の概念と結びついていて、そこから興味深い概念や物理現象が生まれることになります。例えば、ブリルアンゾーンや電気抵抗でのウムクラップ過程等、固体物理の様々な場面でお目にかかることができます。

 上述したように、固体(結晶)物理では、数学を単に計算手段として利用するのではなく、数学での抽象概念が表現論を通して具現化し、さらに具現化を通して物理現象を理解していくと言う筋道を取ります。しかし、数学、特に線形代数があまり得意ではない学生にとって、分かり難い分野であることも事実です。固体(結晶)物理は不思議な世界です。この小文を通して、多くの学生諸君に少しでも興味を持っていただけたら幸いです。

持続可能な社会に向けた材料プロセス
基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科 荒尾与史彦

◎ 材料生産が二酸化炭素を排出する

 世界的に持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)が掲げられており、中でも地球温暖化に関わる二酸化炭素排出の問題は、世界で知恵を出し合って解決していかなくてはならない課題です。二酸化炭素の問題として発電、すなわち化石燃料(石炭、石油)の大量消費がよくクローズアップされておりますが、我々の生活に不可欠な材料を生み出す過程でも多くの二酸化炭素が排出されます。意外かもしれませんが、二酸化炭素の全分野の内訳において高いものから順に、ものづくり(鉄鋼、セメント、プラスチック)31%、発電27%、移動(飛行機、トラック等)16%と報告されており[1]、素材をつくる過程で最も二酸化炭素が排出されております。鉄鋼材料では鉄鉱石を還元する際に大量の二酸化炭素を発生します。また建築物に多く使われるセメントは、多量の二酸化炭素を固化している石灰石を焼成することで作製され、その際に大量の二酸化炭素が排出されます。輸送機器の軽量化のために多用されているアルミニウムや炭素繊維は、還元や焼成の際に大電力を消費します。材料を生み出す際に、可能な限り省エネルギーでかつ二酸化炭素を排出しないプロセスや新素材の開発が求められております。

◎ 理想的な材料は?

 以上の流れの中で、「天然資源を低エネルギーのプロセスで最高の材料に変換したい」これが一つの材料開発の目標となります。現存する材料の中で軽量でありかつ高強度、高機能である材料は何か、と突き詰めていきますと炭素繊維やカーボンナノチューブに代表される炭素材料に行き着きます。その中でも「グラフェン」は炭素原子1層のナノシートであり、この材料は天然資源である黒鉛をうまく剥がせば取り出せることができます。黒鉛は鉛筆やシャープペンシルに使われているありふれた材料ですが、うまく1枚の原子シートを取り出して活用できれば、今までにない素晴らしい材料が生み出されるものと期待されております。人間の知恵を振り絞ってグラフェンへ剥離する技術ができれば、ありふれた材料をダイヤモンド並みに価値の高いものへ昇華させることができます。

◎ グラフェンの低エネルギー量産化の挑戦

 グラフェンシートはシート同士が弱いファンデルワールス力によって引き付け合い、層状構造の黒鉛となっております。弱い力だから簡単にシートを引きはがせますが、これを原子層レベルまで薄く引き剥がすことは困難であり、また引きはがしたとしてもファンデルワールス力によって再積層するといった問題点があります。黒鉛をグラフェンに低エネルギーで変換する技術は、持続可能な材料開発の観点からも間違いなく重要な研究トピックとなっており、日々新しい手法が報告されております。しかしながら、グラフェン品質と低エネルギー、低コストを両立させる方法はまだ確立されておらず、それゆえ皆さんの周りにもグラフェンで作られた製品は未だ出てきていないのが現状です。ファンデルワールス力に打ち勝ち、再凝集を防ぎつつグラフェンを取り出し、それを応用する道筋を見つけることはとても困難です。しかしながら、困難であるからこそ一連のプロセスが確立された際に大きなインパクトを生み出します。
酸化されたガス化した炭素(CO2)は地球温暖化を引き起こす一因となっておりますが、固化された強固な炭素は、地球を救う材料になるかもしれません。

[1] Bill Gates, How to avoid climate disaster, 2021

数学と応用数学のつながり ー符号理論の話題からー
基幹理工学部 応用数理学科 三枝崎剛

正20面体を見て美しいと感じる方は多いと思います。数学者はこのような美しい正多面体に興味を持ち、以下の5種類しか存在しないことを発見しました。その後高次元の正多面体の発見・分類へと研究は進んでいきます。



一方1948年、クロード・シャノンは応用数学の新しい分野、符号理論を創始しました。符号理論とは、2つの離れた場所AとBに情報を正しく伝えたい、その効率化などに関する研究です。正多面体と符号理論、この一見異なる分野が、現代では密接に関係することがわかっています。この小文ではこのような古典的な数学的対象と符号理論の関係について見ていきましょう。

「YES、NO」どちらかのメッセージを場所Aから離れた場所Bへ伝える状況を想像しましょう。情報通信ではメッセージを成分が0と1のベクトルに変換し送信します。たとえば「YES → (0)、NO → (1)」のように。しかし通信の途中で誤りが起こって0が1に変換されては困ります。

  YES → (0) → 誤り → (1) → NO

このように通信途中に誤りが生じると「YES」を送ったつもりが「NO」が届いて、間違ったメッセージが伝わってしまうのです。しかし「YES → (000)、NO → (111)」と変換しメッセージを伝えてみましょう。途中で1つの誤りが生じても

  YES → (000) → 誤り → (010) → YES

今度は正しくメッセージが伝わっています。なぜなら「(010)」と「(000)、(111)」では「(000)」の方が近く(0と1が異なる箇所がそれぞれ1、2個で、1個の方が近い!)、送ったメッセージは「(000)」つまり「YES」と判断できるのです。しかし途中で2つの誤りが起きたと仮定します。

  YES → (000) → 誤り → (011) → NO

すると今度は「(011)」は「(111)」の方が近いため、間違ったメッセージが伝わってしまうのです。このような「(000)、(111)」を符号と呼びます。この符号は2つのベクトルから構成されますので、2つの情報を送信でき、さらに上で紹介したことから、1つの誤り訂正能力を持ちます。現実ではメッセージ2つでなく多くの情報を送信する必要があります。さらに多くの誤りを訂正できる符号の発見が重要です。

次をご覧ください。16個の元からなるベクトルですので、16個の情報を送信できます。そして1つの誤りを訂正できる符号です。



たとえば2行目左の「(1101000)」を送信して1つ誤りが生じ、「(1101001)」を受信したとしましょう。このベクトルと一番近いベクトルは送信したベクトル「(1101000)」であることが確認できます。このように多くの情報を送信でき、さらに多くの誤りを訂正できる符号はどのように構成できるでしょうか。ここでぜひ紙と鉛筆(あるいはコンピューター)を用意して16個のベクトルで1つの誤りを訂正できる符号を皆さん作ってみてください。結構難しい問題なのです。

このような符号を構成する方法に正多面体を用いるものがあります。上に掲載した正20面体を取り上げて符号を作ってみましょう。正20面体の頂点は12個存在して、それを \(\it v_i \) (\(\it i\)=1,…,12) と書いたとき,



で定義されるベクトル (\(\it a_{i {\rm 1}},…, a_{i {\rm 12}}\)) を12本作りましょう (\(\it i\)=1,…,12)。このベクトル (\(\it a_{i {\rm 1}},…, a_{i {\rm 12}}\)) の左に、次で定義されるベクトル (\(\it d_{i {\rm 1}},…, d_{i {\rm 12}}\)) をつなげます。



すると次の12本の行からなるベクトルが得られます。



この12本のベクトルを用いて、1行目+2行目、1行目+3行目など、足し算していくと計2048個のベクトルが得られます(1+1=0と考える)。このようにして得られる符号は3個の誤りを訂正できる符号で、ゴレイ符号と呼ばれます。NASAのボイジャー計画で用いられた、大変性能の良い符号が得られるのです。なぜ性能が良いのか、それには正20面体の対称性、美しさが関係しています。

以上、正多面体と符号理論の一つの関係、数学が社会へ役に立つ一つの例を紹介しました。このような数学的に美しいものが、社会に役に立つ現象は多くの応用数学で観察されます。私自身、高次元の正多面体を用いて、優れた性能を持つ符号の系列を発見してきました。このようにこれまで得られた数学の成果を、応用数学の研究へ応用する、あるいは逆に、応用数学の成果を数学へ還元するといった研究を進めております。

参考文献

[1] Mathematica, Wolfram Research, Inc., Mathematica, Version 12.2, Champaign, IL (2020).

数える楽しみと対称性の数学
基幹理工学部 数学科 池田岳

さまざまな図形を研究するのが幾何学という学問です.私の研究では,条件を満たす図形の個数を数えるというとても素朴な問題を扱っています.図1を見ると,複雑な曲面の中にいくつかの直線が含まれているのが見えるでしょう.3次式によって定まる曲面という意味で「3次曲面」と呼ばれるものの一つです.一般の3次曲面にはちょうど 27 本の直線が含まれていることが知られています(正確には複素3次元射影空間において3次曲面を考える).このように,図形(この問題では直線)の個数を数えるという問題を扱う幾何学の一分野を「数え上げ幾何学」と呼んでいます.もう少し広く,図形の集まりを一つの幾何学的な対象として扱うことをモジュライの幾何学と呼びます.数え上げの問題は 0 次元のモジュライを扱っていることになります.

Q:なぜ 0 次元を扱うのですか?
A:理由はいくつも挙げられます.一つには,結果がものの個数,つまり自然数なので,わかりやすくて面白いのです.図2のように,まるでパズルのような組合せ的な対象の個数と,数え上げ幾何学の答えが一致することがよく起こります.人間が理解できる重要な量は煎じ詰めればただの自然数ということはよくあります.自然数だからといって簡単というわけではないです.また,自然数を得る過程において,高次元のモジュライを駆使しますので,0 次元だけを扱っているわけではありません.

Q:どんな方法を使うのですか?
A:代数幾何学における交叉理論やトポロジーが基礎にあります.私がよく用いるのは特殊多項式の理論です.19世紀に数え上げ幾何学が盛んに研究され始めた頃から,代数的な手法は用いられます.図形が満たす条件を代数的なシンボルとして扱って,答えを導きます.幾何学の問題が代数学に置き換わるところが面白いところです.

Q:特殊多項式とはなんですか?
A:多項式は知ってますよね.高校では整式と呼んでいます.一般には多変数の多項式を扱います.「特殊」というのは「とても個性的で性質が良い」というニュアンスです.代表例はシューア多項式と呼ばれる,多変数多項式の族です.さまざまな表示が可能で,互いの関係が具体的な公式によってよくわかる場合が多いです.さまざまな幾何学的な条件がそれと対応する特殊多項式によって見事に表されるのです.特殊多項式は表現論にも関係しています.

Q:表現論というのはなんですか?
A:自然科学において対称性の解明を目指すとき,線型表現の問題が重要になります.大ざっぱに言えば,線型代数学の拡張です.数学では対称性を「群」という抽象的な構造として理解します.「群」が自然界や数学の世界において行列の形で立ち現れてくる.これを線型表現といいます.上で述べた特殊多項式は表現の解明に用いられる「指標」という関数として解釈できることがあります.

Q:表現論を学ぶにはどうすればいいですか?
A:まずは線型代数学をしっかり勉強することです.数学科の2年生には「ベクトル空間と幾何」という講義で,線型代数の続編として表現論の入門を講義しています.来春にはこの講義内容をもとにした本「テンソル代数と表現論」を出版する予定です.

Q:数え上げ幾何学と表現論が関係するのはなぜですか?
A:どちらも群と深く結びついていますので,関係するのは自然ではあります.しかし,表面的な関係だけではなく,もっともっと深いところで繋がっていることが,ここ数年の研究の発展で徐々にわかっていました.さらにこの先の10年くらいで「数え上げ幾何学」がもっと面白くなるんではないかと思います.

笑いの数理
基幹理工学部 表現工学科 郡司ペギオ幸夫

笑いについての論考というのは案外少なく、今でも100年前の哲学者、ベルグソンの著作が重要な文献になっています。そこでは、繰り返すだけで笑いを起こす「反復」や、地位や役割の「反転」、一つの言葉や人物が両義的な意味を持つことに起因する「交錯」が、笑いを起こす3つのメカニズムとして挙げられています。しかし、これらの議論は、もはや古いギャグやダジャレの類だけを捉えているように思えます。もちろん現代の笑いにも通じるものはありますが、わかりやすい対立軸、例えば、ベルグソンの引用する主人と使用人のような対立軸はもはや明瞭ではなく、対立軸の浮かび上がること自体が、現代の笑いを形作っているように思えます。

研究室の学部生、神さんは、漫才が大好きでこれをなんとか卒論にできないかと相談してきました。日本には「カワイイ」や「マンザイ」の笑いなど、文化に独特のものがあり、それらはグロテスクさや不安、恐怖と紙一重です。それは創造のコアであるとも考えていましたので、すぐさま研究として立ち上げることにしました。桂枝雀は、笑いとは緊張の緩和であると言い、千原ジュニアは、ツッコミとは話を「フチドル」ことだと言っています。この二つは私の頭の中で繋がるものがありました。そこで神くんには、YouTubeに上がっている漫才を徹底的にみて文字に起こしてもらい、これらを調べることにしました。その結果、「フチドル」ということの意味が数理構造として可視化されると共に、緊張の緩和とも関係付けられることになりました。

典型的な事例は、フットボールアワーの次のようなネタに認められます。ボケである岩尾が、次のように話します。「そこを右に曲がるやろ、そうすると横断歩道がある」、「で、まっすぐ行って信号がある」、…、「そのまま行くと、S字クランクや」。と、ここでツッコミである後藤が叫びます。「それ、教習所やろ」。岩尾は、次々と新たな情報を加えていくだけですが、それは最後にはS字クランクとなり、街中の話かと思って聞いていた聴衆は、梯子をはずされたような不安に陥り緊張してしまう。それを後藤が、全て教習所の話だと説明しますから、聴衆はそれを聞いて緊張が解け、一気に爆笑が生じるわけです。バラバラな情報であった岩尾の話に意味を与えた「教習所」こそ、フチドリです。フチドリとは、図と地という対立軸を浮かび上がらせて意味を与え、緊張を緩和することと考えられます。

私たちは緊張の緩和を、「言葉の生起確率が、フチドリによって急に増大する」という形で、説明できると思いました。そこで、漫才における言葉の連なりを、発話とその意味に便宜上分けた後、両者の間の対称性を仮定し、これを二項関係(関係がある・ない)で表しました。ここから、言葉の可能な組み合わせが、漫才の流れ・分脈の中でどのように制限しているか、代数構造の一つである束(演算について閉じた順序集合)で表して解析しました。その結果、淡々と付加される情報の系列は、複数の対角関係(対角成分のみが関係を有する)の形をとり、フチドリは、対角関係の外側全てに関係を認め、文字通り対角関係を「縁取り」していることが分かりました。これを束で表すと、図のように対角関係はブール代数と呼ばれる集合論に対応する論理、フチドリは、それを貼り合わせる要素となることが分かりました。それは、量子論理と関係の深いオーソモジュラー束を部分とする形式で、様々な漫才のネタを解析すると、そのほとんどがこの形になっていることが分かりました。束上で主観的確率を定義すると、フチドリによって確率が上昇し、緊張の緩和を説明できることもわかりました。笑いは量子情報によって説明できるという議論が、一部でなされるようになりましたが、それを一部に含む、より普遍的な構造が笑いにはあるのかもしれません。

ことばを真に理解する人工知能の実現に向けて
基幹理工学部 情報通信学科 河原 大輔

コンピュータで文章(テキスト)を扱う研究分野を自然言語処理と言います。「自然言語」と言っているのは、C言語やJava言語などのプログラミング言語と区別するためです。(しかし、最近では、プログラミング言語のコードの処理や自動生成に関する研究もありますので、単に「言語処理」でよいかもしれません。)

自然言語処理の研究の成果としては、検索エンジン、自動翻訳システムやチャットボットなどがあります。みなさんは、日頃、ウェブ上の検索エンジンを使って、調べたいことを検索しているのではないでしょうか。時には、自動翻訳システムで外国語を翻訳したり、スマートフォン上のチャットボットに質問することもあるかもしれません。

では、自然言語処理における難しさや問題はどこにあるのでしょうか? 次の3つが大きな問題として挙げられます。

・ことばの曖昧性
・知識の欠如
・文脈の適切な考慮

1つ目の問題の例として、「外国人参政権」の単語区切りの曖昧性を挙げます。

(1)
    a. 外国/人/参政/権
    b. 外国/人参/政権

日本語を知っている人であればaが正解だと容易に分かりますが、コンピュータには知識がないため分かりません。これが2つ目の知識の欠如の問題です。つまり、言語や世界に関する知識がコンピュータには欠如しているために、ことばを理解できないのです。

そこで、コンピュータに知識を与えることについて長い間研究されてきました。古くは人手で知識を与えていましたが、1990年代頃から、大量のテキストから自動的に獲得するという方法が主流になりました。さらに、ここ数年は深層学習が進展し、2018年に発表されたBERT [1]やその派生の深層学習モデルでは、テキスト中の単語を隠して、それを当てるという穴埋め問題を何度も繰り返し解くことで言語の基本的な知識を獲得しています(図参照)。このような穴埋め問題はテキストから自動的に大量に作り出せますので、人手をかけずに大量の学習データを作ることができるという利点があります。

3つ目の問題ですが、知識を用いて曖昧性を解消するには、文脈を適切に考慮する必要があります。次の2文では「米/原発」なのか「米原/発」なのかを文脈から判断しないといけません。

(2)
    a. 米原発、外部電源失い緊急停止
    b. 米原発の521系の列車の時刻

知識の獲得、および、獲得した知識の適切な利用によって、単語区切りの認識、構文構造の解析、同義語認識など多くの問題を高精度に解けるようになってきました。しかし、句や文の同義性の認識などはまだ難しく、ことばを本当に理解しているとは到底言えません。上記の知識獲得手法において、句や文のような大きな単位の穴埋め問題にする手法なども提案されていますが、まだ研究の真っ最中です。

テキストからの知識獲得手法にも限界があります。テキストに書いてあることは学習できても、書いていないことは学習できません。人は誰でも知っている常識的なことは基本的に書かず、むしろ変わったことやニュースを書く傾向があります。そのため、常識的な知識はクラウドソーシングなどで人に書いてもらって集合知として獲得するようなことが行われています。

我々の研究室では、コンピュータがテキストから自動的に獲得する知識と、集合知をうまく組み合わせて、ことばを真に理解する人工知能を作るべく、研究を進めています。今後ますます、検索エンジンや自動翻訳など、人の言語活動を支援するアプリケーションの精度が上がり、さらに便利になることが期待されます。

[1] Jacob Devlin, Ming-Wei Chang, Kenton Lee, and Kristina Toutanova. BERT: Pre-training of Deep Bidirectional Transformers for Language Understanding. In Proc. of NAACL 2019, pp.4171–4186. https://aclanthology.org/N19-1423/